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今回のテーマは「経営者は人格者でなければならないのか」についてです。コンサルタント会社として、多くの企業をサポートさせてもらっていますが、この悩みを抱えているクライアントさんは、たくさんいます。
多くの経営者は真面目で勉強熱心で、一生懸命に経営や社員のことを考えているのですが、
・なぜかうまくいかない
・自分の想いが社員に届かない
・自分自身は頑張っているのに、社員に実践がなくて業績が落ちている
といった悩みを抱えています。こういった経営者は、私たちで言うところの、オーナーズトラップにハマっているのです。
【オーナーズトラップとは】
特に、社員30名以下の中小企業の経営者がハマる罠。
社長が、朝から晩まで現場で働いていることによって、社員との距離が空いてしまう。社長が、必死にもがけばもがくほど、社員との距離が広くなってしまう。その結果、社員の離職が増えたり、社内がギスギスしてトラブルが起きてしまう状況のこと。オーナーズトラップにハマっている経営者の特徴は、いつのまにか頑張ってやればやるほど、裏目に出てしまう。
当初は社員が入社しても、次から次へと離職をしてしまい、社内ではトラブルばかり起こっていました。トラブルが起きるたびに、火消しを繰り返す日々でした。そういった中、大きなトラブルがあり、社員がみんな辞めてしまった経験もあります。
その時、私は正直どうしていいかわかりませんでした。社員をどう取り扱えばいいのか、わからなかったのです。私は、比較的子供の頃から人気者で、露骨に人から嫌われるような経験もあまりありませんでした。
しかし、社員さんには露骨に嫌われていく。社員は、みんな私を嫌って、煙たがってる。私を社長としては見るけど人格は見てくれないんです。まさに、「経営者は孤独だ」みたいな話です。
会社をよくしたいという想いで、社員と頑張ってコミュニケーションを取ろうともしました。しかし、年齢が20歳ぐらい違う社員に向かって「大丈夫か?」と話かけてみても、「はあ……。」と言った顔をするんです。
「お前に何がわかるんだよ……。」といった表情で、逆に圧をかけられてしまいました。そうすると、だんだんと社員が怖くなるんですよね。多分この感覚は、中小企業の経営者ならわかってくれるはずです。しかし、やっぱり従業員の皆さんには、この気持ちは伝わりづらいものです。
最近、弊社の30代の社員に話をしている中で、「うちのクライアントや、中小企業の社長は、みんな社員が怖いんだよ」と話すと、彼はびっくりした顔で「えーそんなことがあるんですか」と言いました。「社長が社員を怖いなんて考えられないです!」と言う彼の話を聞いて「そうだよな。普通は考えられないよな」と思いました。
一般的な社員からすれば、社員さんが社長が怖いと思っているんです。社長は偉くて威張っている。それに対して社員はビクビクしていると。でも、日本中の中小企業の社長は、私と同じこと思っているんじゃないかと、僕は思っています。僕自身、昔はどうしていいかわからなくなってくると、社員がダメだと思っていました。
しかし、あまりにも何やってもダメだと、自分が経営者としてダメなんじゃないかと思うようになってくるんですよね。僕がダメだから社員がまとまらないんじゃないかと。こんなことを考えているうちに、余計にどんどん社員が怖くなるんです。傷つきたくないし、できるだけ社員と関わりたくないと思ってしまうんです。
実際に、同じような悩みを抱えているクライアントさんから、こういった相談をされたこともあります。
「安東さん社員面談をしてください」
「俺と社員の間に入ってください」
これはもう完全に、社員が怖くなってしまっているんです。
当時私は、どうしたら一体感のある会社にできるのか、社員に僕の想いが伝わる会社にできるのかわからず、色んな研修にお金を使いました。すると、有名な経営者や成功している経営者が、決まって同じことを言いました。
「会社は経営者の器以上の大きさにはなりません。会社はあなたの鏡です。」
これは、つまりお前の器が小さいから、会社はでかくならないぞっていう台詞です。
今の会社が自分の鏡だとしたら、俺は一体どんな奴なんだろうと傷つきました。私も頑張って、人格者にならなくてはいけないと、考えていた時期が何年かありました。
しかし、途中で一周回って腹が立ってきたんです。人格者になるなんて無理だなと。言っているあなたは70歳だからなれるかもしれないが、私はまだ40代なんだと。
そこで、どうしたら人格者じゃないけれど、会社を成長させられるかを考えるようになったんです。それから、自分なりに色んなことを頑張りました。頑張っていくうちに、だんだんと会社の雰囲気も良くなってきたんです。
人格を変えなくても、会社変わることができたんです。10年前と今とで、人格者になったつもりもありません。しかし今、会社の雰囲気は、昔とは全然違うんです。
今から5、6年前の話です。お客様からも、社員からも愛されている、業績のいいアメリカの企業を見学するツアーを組みました。クライアントさんと一緒に、パタゴニアであったりザッポス、ホールフーズ・マーケットにある、企業を見て回りました。
そのツアーの中で、ある経営者からこんな相談を受けました。
「安東さん実はね、正直言うと悩んでいるんです。どんどん社員が辞めていくんです。社員が入っては辞め、入っては辞めてしまうんです。辞めていく社員が、みんな言うんです。もう社長には付いていけませんと。社長おかしいですよって言われると、やっぱ俺がダメなのかなと思ってしまうんです。」
相談をしてくれた経営者の人は、私から見ても少し変わり者ではありましたが、すごく良い人で素敵な人だったんです。
私は、それは違うよと彼に話をしました。しかし、完全にその人の腑に落とせた感覚がなかったので、翌日ガーバーさんに聞いてみることを提案したのです。そして翌日、ガーバーさんはこう答えました。
「考えてみてください。素晴らしい画家が素晴らしい人格者なんでしょうか。
素晴らしい作家が素晴らしい人格者なんでしょうか。違うのではないでしょうか。
あの人たちは、素晴らしい作品を残し、素晴らしい絵を書いた。
素晴らしい音楽家なら、素晴らしい音楽を残し、人々の心に対して訴えかけた。
だから素晴らしい人だって言われるだけで、別にあの人が人格者かはわからない。
わたしたち起業家は、素晴らしい会社を作ることによって、人に貢献し価値を提供するべき。
あなたが、本当に社員に好かれたと思うのであれば、嫌われようのない会社をつくればいい。
働きがいがあって、誇りがもてて、給料が良くて自慢できる会社を、あなたがつくる技術を身につければ、あなたはきっと素晴らしい経営者だと言われる。」
私は、聞きながら本当にその通り、ガーバーさんはすごいことを言うなと思いました。
私たち起業家が、まずやるべきことは、会社と言う素晴らしい作品をつくるための技術を磨き、システムをつくることなのです。私も、どうすれば色んな経営者が自分の情熱を、お客様、会社、そして社会に届ける技術を身につけてくれるのか、システムをつくれるのかを指針にして、支援をさせていただいています。
会社づくり=作品づくり
そう考えた方が、経営者の気持ちは晴れるんじゃないかと思っています。いろんな経営者をみていても、正直すごい人格者の人はあまりいません。しかし、みなさん愛すべき人なんです。愛すべき人は、完璧ではありません。中小企業の社長は、ここはすごいけど、ここ変だな、おかしいなとか、それぞれあるんです。その愛すべき中小企業の経営者が、社員からもお客様からも愛されるために、一番最初にやらなきゃならないのは、経営者の情熱を社員と共有するためのシステムをつくることです。
・経営者が一生懸命やっていること
・大事だと思っていること
・価値があると思っていること
これらを共有できる社員が横に、周りにいるシステムをつくるのです。そういったシステムを作ることができたら経営者は、人格者でなくてはならないんじゃないかという、悲しいことを思う必要もありません。だからこそやっぱり、経営者は自分の作品をつくる。その作品の第一歩は、自分の情熱を社員に共有するためのシステムとつくることなのです。
経営者は人格者でなくてもいいのです。もちろん、人格者になることは目指すべきだし、私も目指しています。しかし、人格者になければ、会社をうまくまとめられないわけではありません。色んな人に社員に恵まれながら、少しずつ人格者になれるように努力していけばいいのです。