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2023年10月の改訂で、全国平均の最低賃金はとうとう時給1,000円を超えました。大都市圏を抱える東京・神奈川では時給1,100を上回っています。
この賃上げプレッシャーを、中小企業経営者はどう捉えるべきなのでしょうか。
日本企業では長らく「勤勉」が美徳とされ、長く働いて成果を出すことが重視されてきました。しかし結果的にはこの美徳が裏目に出て、企業の生産性がまったく上がらない状況に陥ってしまっています。
いわゆる「失われた30年」を通して、ずっと引きずってきた問題です。
そうした状況の中で最低賃金がどんどん上がっているのは、中小企業経営者に対する「もっと頭を使え」というメッセージなのかもしれません。
どうすれば従業員にもっと高い賃金を払えるのか。30年間それを考えずにやって来たしわ寄せが、今になって一気に押し寄せているような気もします。
私自身も、その努力を怠ってきた1人だと思います。だからこそ、賃上げプレッシャーが押し寄せる今を良い機会として、真剣に向き合うべきだと考えています。
私も中小企業経営者の1人として、人件費増大は大きな痛手だと感じます。
しかし「賃金が上がった、経営が苦しい」とぼやくだけで何もしないのは思考停止。賃金上昇トレンドを良い機会だと捉え、真剣に業務のあり方を見直すことで、経営の基礎体力を強化できるはずです。
私たちは、この状況でどうやって利益を生み出していくかを考え続けなければならないのです。
大企業を例に取れば、エアコンメーカーのダイキンは、かつてエアコン1台を作るのに64時間かかっていましたが、大幅な業務改善によって現在では5時間でできるようになり、生産性が10倍に拡大しました。
これを10年やり続けた会社だからこそ今も競争力を高め続け、賃金トレンドが上がっても対応できるのです。
そしてダイキンの取り組みは、大企業にしかできないことでは決してありません。
現在では、中小企業でも手軽にRPAやDXの推進ツールを活用できるようになりました。これを活用しない手はありません。
人間が担当している業務の中で、これ以上工夫や進化の目処を立てられない仕事はどんどんAIやロボットに置き換えていく。そして人間にしかできないコミュニケーションや創意工夫、課題解決につながる仕事を、必要な教育体制を整えた上で社員に任せていく。
これが「賃金に見合った仕事」を提供する上での基本となるでしょう。
たとえばAppleの場合、設計や部品調達、プロモーションなど創意工夫のいる部分はすべて自社で動かしていますが、最も生産性を高めづらい製造プロセスはすべて海外へ外注しています。自社のリソースをどこに振り向けるかを明確にしているわけです。
自社が発揮すべき価値を見定め、必要な業務を絞り込むことで、中小企業でも高い賃金を払いながら存続する体制を整えられるはず。
逆にこれができなければ、今後は人材不足がネックとなって事業成長を止めてしまうかもしれません。
(安東邦彦/第3回に続きます)