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政府が長期的な経済対策の軸として重視している「賃上げ」。足元では2023年度の改訂によって最低賃金が全国平均で時給1,004円となり、初めて1,000円を超えました。
大都市圏を抱える東京・神奈川では、ついに最低賃金が時給1,100円台に乗っています。
実際に求人サイトなどを見てみると、業種によっては新たな最低賃金とほぼ同等額で募集をかけている企業もありますが、データ入力などの事務作業で時給1,300円〜、コールセンターのオペレーターで時給1,500円〜など、最低賃金水準を大きく上回る募集も多数掲載されています。
飛び抜けた好待遇として求職者に受け止めてもらうには、時給2,000円台の賃金相場で勝負しなければならない時代が間近に迫っているのかもしれません。
一方、中小企業の経営者にとって人件費増大は大きな悩みの種であることも事実。
賃上げのプレッシャーと向き合わなければならない状況の中で、企業は働く人材に何を要望し、どのように育成方針を定め、活躍してもらうべきなのでしょうか。
最低賃金改訂の話題に接して思い出すのは、コロナ前に出かけたアメリカ・カリフォルニア州での出来事です。
当時、すでにカリフォルニア州の最低時給は日本円で1,600円ほどでした。現地で飲食店を営む私の知り合いは「時給1,600円でやっていけるだろうか」と悩んでいたのです。
アメリカにはチップ文化がありますが、「この賃金相場ではチップを個人が受け取るのではなく、会社がもらうくらいにしなければ成り立たない」ともぼやいていました。
それから数年。日本は東京でもようやく1,100円を超え、とうとうこの水準に来たかと感じつつ、私は「遅い」とも思っています。
もちろん人件費増大は企業としては大変なのですが、もっともっと賃金水準を上げていかなければ、これからの日本は成り立たないでしょう。
かつての日本は世界の中でも賃金水準が高く、海外で人を雇うのも海外旅行に出かけるのも、日本人からすれば「安い」という感覚でした。しかし今、世界との立場は完全に逆転してしまっています。
その原因はどこにあるのでしょうか。
日本では長らく「勤勉」が美徳とされ、長く働いて成果を出すことが重視されてきました。この根本的な意識を変えなければ、もう世界では戦えないでしょう。
「真面目に長時間働く」という美徳が裏目に出て、結果的には企業の生産性がまったく上がらなくなってしまったのです。
そうした状況の中で最低賃金がどんどん上がっているのは、中小企業経営者に対する「もっと頭を使え」というメッセージなのかもしれません。
(安東邦彦/第2回に続きます)