コンサルティング
今回のブログでは「社内コミュニケーション」について取り上げます。
社内のコミュニケーションが不調に陥った際には、どのようにして解決していくべきなのでしょうか。
コミュニケーションに限らず、社内の問題を改善しようとするときには、個人あるいは組織に何らかの変化が求められることとなります。
ところが、変化はとても難しいこと。なぜなら、個人にも組織にも「変わりたくない理由」が存在するからです。しかも、その理由は無意識であることが多く、意識していてもそれを公に認めることには勇気が必要です。
そのため何らかの問題が起きても、表面的な原因に対して対処しがちです。
例えば、「物事に感情的に反応してしまう」という人は、「感情をコントロールしよう」とし、自分の感情を抑えられれば解決すると考えがちです。しかし、そう単純な話ではありません。
感情的に反応してしまう理由として、「自分の弱みを他人に見せず、強い自分を守りたい」などの裏の感情が潜んでいたとしたら、まずはそこから改めなければ問題は根治できない
のです。
では、社内のコミュニケーション不調にはどんな「裏の理由」が潜んでいるのでしょうか。
それでは、コミュニケーション不調とは具体的にどんなものなのでしょうか。まずはその内容を確認したいと思います。
以下はHR総研が行なった「社内コミュニケーションに関する調査」からの引用です。企業別の具体的な声が掲載されていますが、ここでは中小企業のものを参考にしてみます。
① 他部門の業務分担や体制が分からず、部門長に作業依頼を行なっても誰が担当するか不明で、期日までに実施されないことがある(サービス業)
② 部の課題を共有しようとしない。そのため、持っている情報が活かされない(サービス業)
③ “言えない”文化の浸透。コミュニケーションの機会づくりが、意図されていない (サービス業)
④ 経営層が社員、特に若手社員や女性社員の本音を聞きだそうとする姿勢が見られない。上辺だけのきれいごとを並べており、社員もしらけている空気がある (サービス業)
⑤ セクショナリズムの強さ(会社風土)。対話の量、質の低下 (メーカー)
⑥ 連帯感がなく、個々に仕事をしている。責任を他部門へ転嫁している傾向がある(メーカー)
上記の内容を見ると、「裏の理由」が潜んでいそうな案件が並んでいます。
例えば①の「他部門の業務担当や体制が分からず~」を考えてみましょう。
他部門の業務担当や体制が分からないなら、それを明確にすれば良いと考えがちです。しかし、それをしない「裏の理由」が存在しているのかもしれません。
具体的には、部門長同士が出世争いで足を引っ張り合っている、部門間で手柄を横取りしようとする風土がある、やっかいごとをそれぞれの部門間で押し付け合っている、などが考えられます。
そうした「裏の理由」を認めることは、本人や組織にとっては辛い作業のはずです。それは言い換えれば本人や組織の弱点だからです。
結果として個人や組織は、問題の本質に向きあわずに早急な思考プロセスへ逃げてしまうことになります。
人間が犯しがちである早急な思考プロセスについて知っておくことは、他人とのコミュニケーションを見直す際に役立つでしょう。
ハーバード大学教授のクリス・アージリスは「推論の梯子」と呼ばれる考え方を提示しました。以下はその概念図です。
上図の言わんとするところは、「人は簡単に思い込みをしてしまう」ということです。
人は何か経験をすると、過去の類似した経験から自分なりの意味づけをします。
例えば、過去にひどくバカにされて相手に笑われた経験のある人にとって、「相手が笑う」ことは「バカにされている」ことに結びつきやすくなります。こうして、個人の経験から思い込みが生まれるのです。
この思い込みのために、同じ言動でも人によって違う意味づけがされ、コミュニケーションエラーにつながります。
では一体、世の企業はコミュニケーション不調という事態にどう対処しているのでしょうか。
再度HR総研の調査からデータを引用します。「コミュニケーション不全の防止・抑制策」を聞いています。
上図によると、「表面的アプローチ」に偏っている傾向が見られるようです。
「レクリエーション」「クラブ・サークル活動」などは親睦を深めるのに有効な機会です。ただ、それだけでは自分の弱点を自覚して、変わるための行動につながる可能性は少ないでしょう。
なぜならこれらは、「裏の理由」へのアプローチになっていないからです。
不快な感情を避け、傷つかないように自分を守ろうとする原因に対処せず、表面的な対策をいくら講じても、効果が望めないことは明らかです。
本当に重要なことは、コミュニケーション不調が何に起因しているかを突き止めること。
それが個々人の弱点に由来するものならば、変化には多くの苦痛を伴います。個人と組織、それぞれが「裏の理由」を知ったとき、初めて人が変わる準備が整うのです。
(安東邦彦)