コンサルティング
大企業の人事関係者の間でバズワードとなっている「人的資本経営」。
前回のブログでは、その概要に触れながら、中小企業こそ人的資本と真剣に向きあうべきだと書きました。
中小企業経営者の多くは、売上を上げることには必死です。もちろんそれは大切なことなのですが、実際に売上を作っていく人材をどう採用し、どう育て、どう定着してもらうかにはほとんど力を割いていません。
売上にしても、最初からうまくいった社長なんていないでしょう。何度も試行錯誤を重ね、苦労して自社なりの稼ぎ方を見つけてきたはず。
しかし人材についてはどうでしょうか。どうすれば自社に合う人材に定着してもらえるのか、売上と同じように試行錯誤して真剣に考えてきたと言えるでしょうか。
私が見てきた中小企業の中には、売上は上昇基調なのに、人がどんどん辞めていってしまうことで、さらなる成長が望めない状態に陥っている会社もたくさんありました。いつまで経っても新人だらけで、一向に顧客価値が高まらないのです。
厳しいことを言うようですが、そうした企業の社長には「人に対するコミット」が足りないと私は思っています。
どんな社長でも、自分自身の目の届く範囲でやっている分には、当然ながら社員のことを一生懸命に考えているでしょう。
しかし社員数が10人、20人と増え、だんだん目が行き届かなくなると、社員一人ひとりへのコミットが薄れていってしまう。採用した人がすぐに辞めてしまうようなことがあれば、「あの人材は質が低かった」などと言ってしまうのです。
そうした状態の社長の頭の中には、「給料を払ってやっているんだから、一生懸命働いて成果を出すのが当然だろう」という意識があるのかもしれません。
一方の社員はどう思っているのでしょうか。きっと「定められた仕事をしているのだから賃金もらうのは当たり前」だと考えているはずです。社長から「もっと成果を出せ」と求められたら、過度なプレッシャーとして受け止めるでしょう。
こうしたすれ違いは、多くの企業に見られます。社長と社員、互いが勝手にラインを引き、勝手に理想を描いて相手に期待しているのです。
このすれ違いを乗り越えるために、私は「社長は2回“ギブ”しなければいけない」と考えています。
まずは社員に給与をギブする。そして次に、やりがいある環境をギブしなければいけません。そうしなければ社員からのテイクは得られないでしょう。
人材は、自分自身が成長できている、人の役に立てていると感じたときにこそ、会社のために真剣に行動してくれるものだからです。人材は、給与を払うだけでは会社にコミットしてくれません。
とはいえ世の社長は、人へのコミットが足りないことになかなか気づけないのも事実。私たちが提供するコンサルティングの現場では、長いお付き合いを通じて、少しずつ人へのコミットを高めていってもらえるように言葉を投げかけています。
(安東邦彦/第3回に続きます)