コンサルティング
今回のブログでは、「企業理念の実践」について考えます。
これまでずっと、企業理念の浸透は企業にとって重要な課題であると考えられていました。
しかし、これが重大な経営課題であるにもかかわらず、浸透を促すのは簡単な仕事ではない
のが実情です。
このため、多少の労力をかけてでも企業理念を浸透させようと、多くの企業は努力を重ねてきました。それに見合うだけの成果が得られると考えたからです。
確かに、企業理念を浸透させることはさまざまな意味で効果があります。
企業理念とは会社の存在意義。それに社員が共感できるならば、彼らは会社の一員であることに誇りを持てるでしょう。日々のモチベーションにも大きく影響を及ぼします。
また企業理念は、会社がこれから目指す方向を大きく示しているものです。この指針があるからこそ、社員は共通の目的に向かって力を合わせることができるのです。
しかし、このように意義深い企業理念ですが、実は浸透に努めるだけでは不十分です。企業理念は「実践」されてこそ真価を発揮します。
浸透の先にある実践へと踏み出すためには何をすればよいのでしょうか。
どんな物事も、「知っている」だけでは「できる」ようになりません。
それと同じことが企業理念にも言えます。つまり、企業理念を浸透させることと、それを実践することは全く別の話なのです。
これを確認するために、人事に関するポータルサイトを運営するHR総合調査研究所が行なった「企業理念浸透に関するアンケート調査」を参照します。
設問では企業理念を浸透させる目的を聞いています。
上図に「目的」として挙げられている各項目は、これまで企業理念の浸透が必要な理由として語られてきたことと合致しています。
しかし、上記調査において注目したいのは、社内に知らせて企業理念を浸透させることまでを目的としている項目と、社員が行動に移すまでを目的としている項目が混在している
という点です。
たとえば、「社員の行動規範」「現場の仕事の質の向上」は、明らかに後者です。「企業経営の方向性の明確化」ができても、すぐに社員の行動が変わるとは限りません。理念の浸透と実践とを同じ土俵で考えるのではなく、分けて検討する必要があります。
それでは実際に、企業はどの程度まで企業理念を実践できているのでしょうか。
下図はNTTコムリサーチが行なった「会社のビジョンに関するアンケート」の結果からの抜粋です。「会社のビジョン、理念、戦略の仕事への活用」について聞いています。
上図によると、「まあまあ活かすことができており、行動も伴っていると思う」「十分活かすことができ、行動できていると思う」を合わせると、実に73%を超えています。
これだけ高い割合の企業が理念を実践できていると認識していることは、喜ばしい限りです。
ただ、「あまり活かせておらず、行動も伴っていないと思う」「まったく活かせていないと思う」と認識している企業も少なからず存在していることを忘れてはなりません。
また、上記調査では、そもそも社員が「会社ビジョンや理念、戦略に共感を覚えない」と感じる理由として、「会社のビジョンや理念、戦略などが社員のモチベーションを向上させるような内容になっていない(45%)」が最多であると示しています。
したがって、企業理念の重要性や内容を社員に理解してもらうことが、企業理念の実践につながる第一歩だと言えます。
では一体、企業理念を知ることと実践することの間に横たわる溝とは、どのようなものなのでしょうか。その実態が垣間見えるデータを参照します。
下図は労務行政研究所が行なった「経営理念の策定・浸透に関するアンケート」からの抜粋です。経営理念の浸透・共有に向けた課題として、次のような声が上がっています。
●日常業務と経営理念のつながりを常日頃から意識しているとは言い難い。特に30代以下の層では経営理念を「知っている・共感している」レベルにとどまっており、実践している認識がない
●理念と自分の仕事のつながりの理解が不足していると思われる。理念の表現がとっつきにくく、身近に感じていない
●朝礼で唱和するだけで、会議等での行動や会話では意識されていないように思える
さらに、上記の課題を挙げた企業は、理念を実践するための取り組みとして効果があったものも回答しています。
◎「経営理念について考える」ことに特化した研修を開始
◎経営理念に関連する言葉を研修参加者から発信させている
◎理念の策定を従業員で行なったこと
上記を見ると、企業理念をトップダウンで社員に刷り込もうとすることよりも、社員自ら考えることが大切であるということが分かります。
どんなに立派な企業理念があったとしても、浸透していなければ、それは宝の持ち腐れです。そしてどんなに立派な企業理念であっても、行動に移されなければなりません。その主体は、会社で働いている人全員です。
企業理念を実践へと移すためには、取り組みをトップダウンで押し付けても効果は期待できません。自分が何に取り組むのか。それを社員自身に考えさせることが大切なのです。
(安東邦彦)