コンサルティング
今回のブログでは、経営をする上で否応なしに直面する「非合理」について考えます。
とは言っても、経営における非合理のみをテーマにするわけではありません。経営は基本的に合理的なものです。
データや数字に基づかない戦略、明確なロジックを持たない戦略では失敗は避けられません。それでも突き進むのは勇気ではなく「無謀」です。しかしながら、経営のすべてが合理的ではないのもまた事実であるようです。
経営の本質を語る際には、よく「80%までは合理的に進められるが、残りの20%は非合理に賭けざるを得ない」という言葉が聞かれます。
非合理というと難しく聞こえるかもしれませんが、要は「どんなに頭で考えたって、やってみなければ分からないことがある」ということ。土壇場で経営者に求められるのは、未だ知られざる20%を跳んでみせる勇気なのでしょう。
その勇気は、経営者にとって当たり前のことなのかもしれません。未知を跳ぶ勇気がなければ経営者になろうとは決して思わないでしょうから。
ただ、経営者も常に不安を抱えていますよね。このまま前に進んでいいのか? それともこの場に留まるべきなのか? そうした見極めに役立つ考え方をご紹介します。
跳ぶべきか跳ばざるべきか、この単純にして根本的な問題は、経営者に常に付きまといます。
では具体的に、経営者はどんなことに悩んでいるのでしょうか。下図は東京商工会議所 中小企業部が実施した「中小企業の経営課題に関するアンケート」からの抜粋です。
「売上拡大に取り組む上での課題」を聞いています(複数回答)。
上図では、各種の「不足」がランキングの要素をすべて埋めています。売上拡大に向けて経営者が現状に満足することなく、常に危機感を抱き、さらなる高みを目指そうとする意識が表れています。
しかし、ここで注目したいのは、アンケートによって抽出された上記の要素ではありません。
むしろ、先に挙げた「跳ぶべきか跳ばざるべきか」、その葛藤がこうしたランキングに入ってこないという事実にこそ注目したいのです。
なぜなら、それは経営において永遠の課題であるはずなのに、決して表立って話されることがないからです。
世間ではよく「経営者は孤独」だと言われますが、その理由は表立って話されることのない永遠の課題にあるのかもしれません。
実際に、上記調査で挙げられた「人材の不足」「製品・サービス・技術の不足」なども経営上の課題であることは間違いありません。非常に深刻な問題です。
ただ、挙がっているそれぞれの項目で何らかの解決策を見出そうとすれば、やはり経営者自身が意を決して跳躍し、前へ進まなければならないのだと思います。
もちろん、ここでも8割までは合理的に対処できるでしょう。しかし、2割は非合理な部分が残ります。例えば技術やシステムを革新しようとすれば、うまくいくかどうかはわからないけれど大きな投資が必要となるように……。
しかし、それが表立った課題として出てくることはあまりありません。そのため社員には経営者の葛藤が伝わらず、経営者は孤独をより一層深めてしまいます。
とは言え、いくら孤独や不安を抱えていても、どこかで跳ばなければならないのが経営者の義務なのでしょう。
経営者自身も、跳ばなければ会社が成長しないことを深く理解しているはずです。ただ、誰でも簡単にできることではないからこそ、その跳躍が競合他社から抜きん出る重要なきっかけになるのです。
ここで紹介したい企業が1社あります。中古車買取・販売事業の「ガリバー」を展開する株式会社IDOMです。
同社は、これまでに何度も合理と非合理の溝を跳ぶ決断を下して業界の常識を打ち破ってきました。
従来の中古車業界と言えば、常に「在庫リスク」との戦い。ガリバーはこの状況を打破するため、買い取った中古車をすぐに業者間オークションに出品する「買取専門店」のビジネスモデルを構築したのです。
これは業界の常識を覆す決断でした。ガリバーはその後もネット販売などに進出し、進化を続けています。
では、合理と非合理の溝を跳躍してきたガリバーは現在どういう状況なのでしょうか。
下図は企業業績の分析を専門に行なっているSuikのデータから、中古車業界の売上高ランキングを抜粋したものです。
上図のではガリバーを運営するIDOMが業界トップに立っています。なぜこのような業績を達成できたかというと、大きな要因の一つは業界の常識を破ったから、つまり他の企業が跳べなかった合理と非合理の間にある大きな溝を跳んでみせたからに違いありません。
このように、ガリバーは自社だけでなく中古車業界全体にとっても大いなる未知である溝を跳んでみせました。
ただ、それは単なる向こう見ずではありません。しっかりと合理的な部分も持ち合わせていました。だからこそ真の成功をつかんでいるのでしょう。
跳ぶまでの最後の一歩、ギリギリまで合理的に考えることが優れた戦略と結果を生むのです。
(安東邦彦)