コンサルティング
2022年4月、職場のパワーハラスメントを防ぐことを目的とした労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が改正され、中小企業にも適用が拡大しました。
中小企業においてもパワハラに当たる行為の周知や、事後対応・処分方針の規定、さらに相談窓口の設置などが求められるようになっています。一方、パワハラ防止への高い意識を持ち、実際に打ち手を講じている中小企業はまだまだ少ないのが現実ではないでしょうか。法改正そのものについて認識していない経営者も多いでしょう。
しかし、ただでさえ人材確保が厳しいなかにあって、従業員の離職に直結するパワハラの問題を放置することは中小企業にとって死活問題となります。
そこで今回のブログでは、ブレインマークスが関わってきたコンサルティングの現場から「パワハラが顕在化していた事例」を振り返り、パワハラが生まれてしまう原因や、経営者が取るべき対策を見ていきます。
結論から言えば、私はこれまでに「どう考えてもこれはパワハラだろう」と思われるケースをたくさん目にしてきました。表沙汰になっているかどうかは別として、経営者自身による従業員へのパワハラも目撃しました。
その入り口は、経営者が何気なく行う「叱責」であることがほとんどでした。
たとえば若手に対して、現状の本人の力量では対応できないような高いレベルの目標を課し、未達成であることを厳しく叱責するようなケースです。
中小企業は人材が限られるため、入社したばかりの若手人材に、教育もロクにできていない状態で責任の重い仕事を任せることが珍しくありません。そうするとミスが起き、クレームにもつながります。
結果、社長は顧客に「うちの馬鹿社員がすみません」と頭を下げ、社員には「何をやっているんだ、お客さまに迷惑をかけて」と叱責する……。事の経緯を考えれば、これは歴としたパワハラだと言えるでしょう。
「それはどんな会社でも当たり前に起きていることでは?」
そう感じた方も多いかもしれません。実際、こうした問題が問題だと認識されずに常態化し、せっかく新しい人が入社しても1〜2年でどんどん辞めていってしまうという会社は少なくありません。相手に伝わらない叱責や叱咤には何の意味もない
では、当の社長自身は本当に問題に気づいていないのでしょうか。
少なくとも「何かまずい」とは思っているはずです。顧客に迷惑をかけてしまっている現状は何としても変えたいと考えているでしょう。
それでもなかなか変われないままでいるのは、リーダーとして、マネジャーとしてのスキルが不足しているからだと考えています。
一定以上の世代の人には、「顧客のために一生懸命働くのは当たり前だ」という思いがあるでしょう。かつては顧客のために深夜も土日も厭わずに働くことが常識でした。
しかし今は違います。理由がどうであれ、ワーク・ライフ・バランスを無視するような発言は、伝え方やシチュエーションによって明確なパワハラとなってしまいます。
必要があって従業員を叱責するとしても、相手の成長のために叱責できているか ちゃんと戦略的に叱責できているかを考えなければなりません。
一昔前とは違い、今は怒鳴っても相手にはまったく伝わらないのです。経営者や管理職としての評判を落とすだけであり、まったくもって戦略的とは言えません。相手に伝わらない叱責や叱咤には何の意味もなく、プロフェッショナルのやることではありません。
これは、リーダーとして、マネジャーとしてのスキルが不足しているということ。そして残念ながら、スキルが不足している経営者や管理職は非常に多いと感じています。
かく言う私自身も、かつてはその分かりやすい事例の一つでした。
(安東邦彦/第2回に続きます)