コンサルティング
今回のブログでは、事業計画に代表される「経営計画」について考えます。
というのも、経営計画はほとんどの経営者が重要なものと認識しているにも関わらず、「どういうものか良く理解されていない」という一面があるからです。
だからこそ、今さらですが、経営計画を根本から問い直し、経営計画の意義を明示したいと思います。
経営計画は、いくつもの要素から構成されています。例えば、ビジョンであったり、年間戦略であったり……。実は、このことが経営計画をわかりづらくする要因になっています。
ビジョンや年間戦略はどのように策定したらいいのか、各要素がどのように関係しあっているのか、そもそも経営計画に必要な要素とは何か。
こういった経営計画策定の手前の段階でつまずいてしまう企業は少なくありません。
経営計画を立てる際には、どのような落とし穴が潜んでいるのでしょうか。詳しく考えていきましょう。
それでは最初に、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行なった「経営管理の状況に関するアンケート」調査結果を参照します。
下図は経営課題について聞いています(3つまでの複数回答)。
上図によると、当たり前ではありますが、経営課題は「未来志向」であることがわかります。
中でも、トップに挙がっている「新規事業の開発」と「次世代幹部の育成」は非常に具体的で、納得できるものです。
しかし、今回注目したいのは、同率3位に挙がっている「中期経営計画/事業戦略の策定」です。これらが経営課題になるというのは、どういう意味なのでしょうか。
ちなみに、上記調査には「経営ビジョン/ウェイの策定・浸透」という項目も挙がっていました(20.7%)。これらを考え併せると、やはり経営計画と事業戦略は策定するのがややこしく、その構成要素の一つである経営ビジョンもまた、策定が難しいと捉えている企業が多いのだと思います。
そのため、ここでは経営計画とその構成要素をわかりやすく考えるために、建築に例えてみたいと思います。
建築の世界では、大きな建物を造ろうとするとき、3つの設計段階があります。
まず、第一段階で行なわれるのは「コンセプトの設計」です。例えば、サントリー美術館のホームページを開くと、設計を手がけた建築家の隈研吾氏は「都市の居間としての居心地の良い美術館を目指した」とあります。これがサントリー美術館のコンセプトです。
次に行なうのがコンセプトを建物の構造に反映する基本構造設計です。
同じくサントリー美術館の記述には、「日本の伝統と現代を融合させた『和のモダン』を基調に、安らぎと優しさに溢れた空間を実現」とあります。これが基本構造を表しています。
最終段階では、その構造物を実際に施工するために必要な詳細設計を行ないます。
サントリー美術館では、「外観は白磁のルーバー(縦格子)に覆われ、透明感すら感じさせます。館内には、木と和紙を意匠に用い、和の素材ならではの自然のぬくもりと、柔らかい光を表現」となっています。
建築の世界でコンセプトと呼ばれるものが、経営計画における最終目的、「経営理念」に当たります。そして、基本構造設計に当たるものが、どのように理念を実現するかを描いた将来像、いわゆる「ビジョン」です。
現状を正確に把握するのは、この「経営理念」、「ビジョン」と現在のギャップを認識するためなのです。
現場での詳細設計は、「ビジョン」を現実のものにするための変革の計画であり、具体的にどのような行動によって「ビジョン」を達成するのか、現場レベルにまで落とし込みます。
ここで大事になるのが、計画策定の順番です。
すでに述べたように、計画策定のスタートは経営理念であるべきです(コンセプト設計)。
ちなみに、経営理念とは「企業全体として何を成し遂げたいか、どんな存在になりたいか」の最終目的を表現したものと考えるとわかりやすいでしょう。
そうした理念を将来において実現できるように、自らの事業をどんな姿にしたいか考えるのが次のステップ「ビジョン」です。具体的な将来の姿を思い描きます(基本構造設計)。
なりたい姿が明らかになった上で現状を分析し、ギャップを埋めて現状を変革するために現場での詳細設計をするということです。この順番を図にすると下図のようになります。
経営計画を策定する場合には、まずは最終目的を明確にし、そして各段階で形づくる計画の構成要素がそれぞれどんな働きをするかを設計しましょう。
それでこそ経営計画は揺るぎないものとなります。
(安東邦彦)