コンサルティング
今回のブログでは、会社組織の新たな形態について考えてみたいと思います。
ここで重要になってくるのが、「パラダイム」という視点です。
パラダイムとは、「ある時代のものの見方・考え方を支配する認識の枠組み」のこと。例えば、今では地動説(太陽中心)が常識になっていますが、コペルニクス以前は天動説(地球中心)が当たり前でした。そして、ものの見方・考え方も天動説に支配されていたのです。
同じことが組織の在り方についても起こりえます。
歴史的にみると、戦国時代には「衝動型組織」と呼ばれる組織の在り方が存在しました(今も一部でまだ見られます)。
この組織形態の特徴は「対人関係に力を行使し続けること」。トップは油断すると寝首をかかれてしまうので、少しでも安定を得ようと周りを身内で固めます。組織の基本にあるのは恐怖と服従で、トップは褒美を与えてメンバーの忠誠を買います。
これは、戦国時代というパラダイムがあり、その中で時代にふさわしい組織が形成されたということなのでしょう。
現代の私たちもパラダイムの中に生きて、それにふさわしい組織を形成しています。もしかするとそれが、会社の成長を阻害してしまっているかもしれません。
それでは最初に、今はどんな組織の在り方が優勢なのかを確認しておきます。
大まかな分類であることを最初にお断りしたうえで、企業や政治においては「達成」することを良しとする認識が主流であるといえます。
これは達成型パラダイムと呼ばれ、この認識のもとで形成されるのが達成型組織です。判断基準は「成果が上がるか上がらないか」で、最善の判断は、最大の結果をもたらす判断ということになります。
個人の目標としては(これもすべての人がそうと言っているわけではありません)、前に進むこと、社会に受け入れられる方法で成功すること、自分に与えられたカードで最後まで全力を尽くすこと、といったものが目立ちます。
私たちは、出世する、人生の伴侶を得る、新車を買う、新築の家を建てるという目標を達成すると幸せになるはずだという「前提」で生活しているわけです。
達成型組織が人類にもたらした恩恵は甚大です。世界は豊かになり、先進諸国では飢饉や疫病が激減し、平均寿命も大きく伸びました。
しかし、影の部分もありました。負債過多、過剰消費、環境への法外な負担などです。企業などの組織運営においても然りです。
達成型組織のリーダーシップは目標達成重視で、目に見える問題を解決することに集中するため、人間関係よりも業務遂行を優先させがちです。
また、経営トップの統制がきかなくなることへの恐れが部下への信頼に勝ってしまい、本来委譲すべき権限を渡さないという現象も未だ克服できていない点です。
上記の達成型組織の恩恵は認めつつも、影の部分を乗り越えようとする試みが「進化型組織」です。
進化型組織を形成させるパラダイムとしては、「人生とは自分たちの本当の姿を明らかにしていく個人的・集団的な行程」と挙げられています。
先に述べた出世、新車、新築の家……といった成功の判断基準が、実は自分が人生において求めているものではないと気づき始めている人たちがいるのです。
彼らはそれらを求めるよりも、自分自身の本当の姿を表現し、本当に自分らしい自分になるまで生き、生まれながらに持っている才能や使命感を尊重し、他人や世界に役立つことを人生の究極の目的に据えています。
フランスの精神分析家ジャック・ラカンに「欲望は他者の欲望」という言葉があります。進化型パラダイムを生きる人々には、出世、新車、新築の家は、まさに他者の欲望だったわけです。
こうしたパラダイムの中で形成されていく進化型組織の最大の特徴は、上司や管理職、リーダーがいないということでしょう。
達成型組織では、権力は戦って勝ち取る価値のある希少なものと考えられています。
権力を一部の者が独占し、同じ組織で働く仲間を権力者とそれ以外にわける行為は、個人的な野望、政治的駆け引き、不信、恐れ、妬みといった影の部分を露出させやすくします。
組織の最下層には負の感情が渦巻き、働くモチベーションの低下を招きやすいのです。
「上司も管理職もリーダーもいない組織がうまく機能するものだろうか」と疑念をもつ人もいるでしょう。しかし、そうした組織が大きな成長を遂げている事実もあります。
たとえば、オランダの地域看護組織「ビュートゾルフ」は、2006年に4名の看護師で開業した組織ですが、現在では従業員1万人(オランダ国内)を超えるまでに成長しています。ここは上司や管理職、リーダーを置かない進化型組織として知られています。
ただし、メンバーが何の訓練も受けることなしに、進化型組織がうまく機能することは滅多にないそうです。集団で健全な意思決定をうまくするための訓練が不可欠なのです。
また、まずは経営者自身が認識を大きく変える必要があることは言うまでもありません。
現在の組織形態は本当に最適なのか? そんな疑問を持ち、さまざまな組織のあり方に目を向けることも重要なのではないでしょうか。
(安東邦彦)