コンサルティング
今回は、せっかく入社してくれた社員に長く働いてもらうためにはどうすればいいのかを考えます。
ご承知の通り、いま日本の労働市場は売り手市場が続いています。人手が欲しい企業が多いのに、その需要を満たすだけの人手がありません。コロナ禍による短期的な変化はあれど、長期的にはこの傾向は変わらないでしょう。
昨今では人手不足を原因とする「求人難」型の倒産も増えています。
人手不足である以上、今いる社員に辞められたくないのは当然です。加えて、売り手市場のなか、せっかく入社した社員にできるだけ長く勤めてもらいたいと考えるのも、また当然でしょう。
そのために企業は、どんなことに取り組むべきなのでしょうか。いろいろと努力しているつもりでも、もしかしたら「その努力が的を射ていない」ということもあるかもしれません。
長く勤めてもらうための施策は入社後のことだと考えるかもしれませんが、実はそれは、入社前から始まっているのです。
それでは最初に、全国の企業がどれほど人手不足を感じているかを確認しておきます。
下図は日本商工会議所が全国の中小企業4000社あまりを対象に行なった「人手不足等への対応に関する調査」からの抜粋です。人員の過不足状況について聞いています。
上図によると、60%以上の企業が「人手不足」を感じています。ちなみに、前年(平成28年)の調査と比べてみると、この数字は5ポイント上昇しています。
つまり、年を追うごとに人手不足の傾向は大きくなっており、しかも1年に5ポイント上昇というように、急激に広がっているのです。
なぜ多くの企業で人員が足りていないのでしょうか。
上記調査で「不足している」と回答した企業に対して、さらに「人員が充足できない理由」について聞いています。
上図によると、「募集をしても応募がなかった」「自社が求めていた人材ではなかった」が他の理由から抜きんでています。
そしてこの2つの理由はまったく別の理由に見えて、密接に関係があると思われます。すなわち、「自社のことを十分に伝えられていない」ために起こる問題だと考えられるのです。
2つの理由のうち「自社が求めていた人材ではなかった」のほうから考えるとわかりやすいかもしれません。
果たして募集に当たって、自社が求める人材のイメージを本当に明確に描き出せているでしょうか。そしてちゃんと、候補者に伝えられてているでしょうか。
こうした現状を考えると、新たに社員を採用する際には、自社の姿を今一度見つめ直すことが必要であると言えそうです。
例えば、自社のホームページはどの程度の頻度で更新しているでしょうか。応募する会社のホームページを閲覧するのは、今の就職活動において当たり前です。ところが、そのホームページがしばらく更新されていなかったとしたらどうでしょう?
応募者の熱意が下がっていく可能性も考えられます。
さらに、上記【図2】にある「内定を出し、入社したものの、定着しなかった」にも触れておきます。
下図はエン・ジャパンが行なった調査「退職理由のホンネとタテマエ」からの抜粋です。
上記の退職理由を考慮すると、効果的な個別面談などを実施して、社員が何を考えているのかを把握しておくことが大切であるとわかるはずです。
また、上記の理由すべてに潜在しているのは、入社前と入社後のギャップです。そのギャップをなくすためには、企業側も自分たちが何者で、何がしたいのか、そして社員に何を求めるかを明確に伝える努力が必要なのではないでしょうか。
(安東邦彦)