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2021.05.06

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かわいい社員には旅をさせろ 〜「留職」で実現する実利と人情の研修

安東 邦彦

社員教育は「実利」と「人情」で成り立つ

企業にとって、「ヒト・モノ・カネ」は不可欠な経営資源です。

中でも重要視され、同時に多くの企業が課題としているのが「ヒト」(社員)でしょう。社員をどのように育てていくかは、時代に関わらず、常に企業にとっての重大な関心事ではないでしょうか。

なぜなら、社員が持てる力を発揮して働いてくれることが企業の利益につながるからです。

だからといって、会社の利益ばかりに偏った教育は社員のやる気を削ぎ、結果として双方の利益を損なう可能性もあります。

経営者と社員は長い付き合いになります。長く勤めるとなれば、社員にとっては、人生で親よりも一緒にいる時間が多い相手となるでしょう。

経営者としては、人としての部下の人間的成長を望むのが人情というもの。また、人間的成長が利益を生む側面も忘れてはなりません。

つまり、実利的なもの、人情的なもの、双方が密接につながりながら、社員教育の土台は形づくられています。それだけに複雑で、どうすればいいのか悩む企業も多いようです。

そこで今回は、そうした悩みに応えるべく「留職」という手法を紹介したいと思います。

さまざまな「やりがい」をもたらす留職プログラム

「留職」は、NPO法人クロスフィールズが実施している研修プログラム。

各企業で経験を積んだ社員を、主にアジアの新興国に一定期間(1~3カ月)派遣して、現地の社会が直面している課題を自ら見つけ出し、何らかの解決策を提示・実行してくるというものです。

現地の課題とは、例えば貧困やエネルギー、教育、衛生など。これは壮大な「他人の飯を食う」ためのプログラムだと言えます。

ところで、人はどんなときにやりがいを感じるのでしょうか。

ここで転職サイト大手のエン・ジャパンが行なった「仕事のやりがい」についての調査を抜粋します。

上図に挙がった項目を見ると、留職プログラムは多くの面でやりがいをもたらしてくれる可能性のあることが分かります。

知らない土地に一人で赴任し、現地の課題を自ら見つけ出し、自分の専門分野を生かして周囲と協力しながら解決する。それは責任ある仕事ですし、現地の人たちにも喜んでもらえるに違いありません。

なぜ自社で満足できずに転職を考えるようになるのか

対して、会社での普段の仕事を振り返ってみましょう。自分がやりたい仕事を思いきりやれる環境など、そうそうあるものではありません。

志を語っても、「まずは目の前の仕事をやり遂げてからだ」と先輩社員にたしなめられる。そんな経験がある人も少なくないでしょう。

職種によっては、「自分の仕事が本当に人の役に立っているのか見えづらい」という側面もあるかもしれません。

同じくエン・ジャパンが行なった調査に「ミドルの転職について」があります。転職を考えたきっかけ、理由を聞いています。

上図の転職理由は、それぞれもっともなものです。会社の考えと合わなかったり、人間関係がうまくいかなかったりすれば毎日が苦痛です。

ただ興味深いのは、転職を考えるようになった理由と、転職によって実現したいことはイコールではない、ということです。設問にある通り、それらはあくまで「きっかけ」に過ぎません。

かわいい社員には旅をさせろ

それでは、転職によって実現したいこととは何なのでしょうか。上記調査によると「経験・能力が生かせるポジションへの転職」だそうです。

社員が現状に対してこうした不満を抱えているとしたら、留職は格好の研修プログラムなのではないでしょうか。さらに言うならば、ここを満足させてあげることができたら、転職を考えるきっかけや理由さえも拭い去ってくれる効果がありそうです。

会社にとって、せっかく育てた社員、あるいはこれからの成長に期待する社員に辞められてしまうことほどの損失はないはずです。

留職プログラムとは、壮大な「他人の飯を食う」ためのプログラムであると書きました。

改めて、「他人の飯を食う」の意味を確認すると、「親元を離れ、他人の家に奉公するなどして、実社会の経験を積む」とされています。つまり留職とは「かわいい社員には旅をさせろ」ということ。

まさしく実利+人情の研修制度だと言えるのではないでしょうか。

(安東邦彦)

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