コンサルティング
今、経営者として会社を率いている人のほとんどは、何かしらの「夢」や「展望」を描いて起業したり、経営を引き継いだりしているはずです。
それは雇われの身では得られない自由への憧れだったかもしれません。富と名声を手に入れることだったかもしれません。あるいは社会の課題を解決し、誰かの役に立っている実感を得ることだったかもしれません。
しかし経営者を続けていると、そうした夢や展望をつい忘れがちになってしまうこともあります。
目の前の売り上げ拡大や従業員のマネジメントに追われる日々。しかもそれらは、常にうまくいっているとは限らないから大変。
自分自身の時間や人間関係、財産をすべて投げ売って会社経営に没頭している人も多いでしょう。そんなときに私たちはふと立ち止まり、考えるのです。
「なぜ自分は、社長になったのだろう?」と。
■なぜ自分は、社長になったのだろう?
会社を経営していると、うまくいかないことは山のように出てきます。そんなときにはまず、これを自分に問いかけてみてほしいのです。
なぜ自分は経営者となることを決意したのか。
どのような会社でも、また創業者であっても2代目であっても、経営者となることを決意した瞬間があるはずです。
これは20年、30年と自分の会社を経営してきたベテラン社長でも、昨日今日、独立したばかりの新人社長でも同じこと。その動機はさまざまで、まさに十人十色でしょう。
・上司の気紛れに振り回されるのはもう嫌だった。
・自分が頭に描く通りに仕事をしてみたくなった。
・経営者として成功してお金を稼ぎたいと考えた。
・自由で気ままに雇われない暮らしをしてみたかった。
・自らのアイデアで社会の課題を解決したかった。
こうした夢や展望は、実現できていますか?
描いた将来像の通りになっていますか?
■独立から5年。すべてを犠牲にしてがむしゃらに働くだけ
実は私自身も同じような暗闇を経験しています。
独立してから必死でやってきたこともあり、会社としての業績だけ見れば、利益を上げて着実に成長し続けているように思えました。
しかし本当のところは、自分自身を犠牲にすることで何とか会社というものを成り立たせていただけなのかもしれません。
朝から晩まで必死に働き、お客さまの要望に応えるために土日出勤も当たり前。たまの休みも仕事のことばかり考え、まさに寝食を忘れて、がむしゃらに働いてきました。
独立したといっても、「自由気ままな暮らし」などといったものは幻想でしかなかったのです。
自分の時間や人間関係、将来のすべてを注ぎ込み、犠牲にして、やっと会社を維持できる。
しかも私は常に、従業員の問題や取引先の問題を抱えていました。とてもではありませんが、「自信を持って会社経営をしている」と言えるような状況ではありませんでした。
そして、いつの間にか、起業した当初に描いた将来像も「自分には大きすぎる夢だった」というあきらめに変わっていったのです。
■事業は、人生を豊かにするための「乗り物」に過ぎない
マイケルE.ガーバーは、著書『はじめの一歩を踏み出そう』の中で次のように言っています。
“事業の将来に不安を感じたら、仕事を始める前に、次の質問を自分に問いかけてみてほしい。
・私はどんな人生を過ごしたいと思っているのか?
・私は毎日どんな生活を送りたいのか?
・人生の中で何を大切にしたいのか?
・自分以外の人たち——−家族、友達、仕事仲間、顧客、従業員、地域社会——−とどのように関わっていきたいのか?
・自分以外の人たちから、どう思われたいのか?
・2年後、10年後、20年後、そして人生が終わりに近づいたときに何をしていたいのか?
・夢を実現するためにはどのくらいお金が必要か? いつまでに必要か?“
結局のところ、あなたの「事業」はあなたの人生を豊かにするための「乗り物」に過ぎません。あなたの事業は、あなたの人生そのものではないのです。
もし現在のビジネスであなたの描いた人生を実現できないのなら、迷わずそれを変革すべき。経営者はそれをつい忘れてしまうものなのかもしれません。
もう一度問いかけてみたいと思います。経営者になった当時のことを思い返してみてください。
あなたは、なぜ社長になろうと考えたのですか?
あなたは、どのような人生を送りたいですか?
これが、あなたの事業を成長に導くための原動力であり、出発点なのです。
(安東邦彦)