コンサルティング
中小企業が抱えるジレンマ
フレデリック・ラルー著『ティール組織』(英治出版)をもとに、引き続き中小企業の組織を変化させる方法について考えたいと思います。
【関連記事】
中小企業とティール組織①(http://www.brain-marks.com/wordpress/blog/consulting/2259.html)
中小企業とティール組織②(http://www.brain-marks.com/wordpress/blog/consulting/2277.html)
巨大な組織である大企業は、案外変化に強いものです。
変化に強い社員は成果に基づいて出世し、
変化を嫌う社員は出世できずに飛ばされる。
強引なやり方ではありますが、豊富な人材を抱えるからこそできることです。
しかし中小企業ではそうはいきません。
人手不足が叫ばれている昨今では、
一人ひとりの人材を大切にして育成しなければ、未来はないのです。
ただ、変化を嫌う、自発性のない社員たちも大切にして育成することは、
なかなか難しいことではないでしょうか。
人材を大切にする必要性は、理解している。
しかし、自発性のない社員をどう扱えばよいのかが、わからない
このようなジレンマを抱える中小企業は、数多く存在しているのです。
一方で、ティール組織は、上司と部下の上下関係がなくても、
組織が持続的に発展していくことができる組織です。
強い指示命令系統を持たない組織で、なぜ、そのようなことが可能なのでしょうか。
キーワードは、「社員の自主性」です。
自ら考え、行動し、自身や組織の成長に寄与する人材が、
ティール組織には必要不可欠なのです。
そこで第3回目の今回は、ティール組織に重要な「社員の自発性」をテーマに、
いかにして社員の自主性を育んでいくかを考えます。
会社が居場所になるためには
ティール組織のように、組織をフラットにしようにもなかなか難しいのは、
取り組む順番を間違えているからです。
自主性をもつ社員がいないままに組織をフラットにしても、
崩壊の一途を辿ってしまいます。
組織をフラットにするのは後からでもできることです。
その前に、自主性を持つ社員を徹底的に育てることが必要なのです。
そのプロセスの中で、経営者は
「こんなに社員を甘やかしていいのか」
「こんなに好き勝手にやらせていいのか」
と思うことがあるかもしれません。
社員が自由気ままにやっていることに、危機感を覚えることもあるかもしれません。
もちろん、指導する必要があることには、きちんと指摘しなければならないでしょう。
しかし、一度立ち止まって考えてみてください。
一体、どんな社員が自主性をもっているのでしょうか。
それは、「会社が好き」で、「会社が自分の居場所」だと感じている社員です。
決められたこと、指示されたことだけをやっているばかりでは、
人は自主性をもち得ないのです。
「会社が好き」であり、「会社が自分の居場所」であること。
これを社員に実感してもらう以外に、自主性を育てる道はありません。
私自身がさまざまな組織の改革に立ち会ってきた実感でいうと、
7割の社員がその状態になれば、残りの3割を飲み込み、変えていくことができます。
「5分5分」ではダメです。
これだと人間は現状維持に走ります。
つまり30人の企業なら、そのうち20人以上を巻き込んでいくということ。
オセロをひっくり返すように、一人ひとりを地道に変えていくしかないのです。
誰を変えるべきなのか?
会社を変える。組織を変える。
この字面からは、「一気に全体を変えていく」という
勢いのようなものを感じるかもしれませんね。
しかし実際には、組織を構成する全員を一気に変えるなんて、ありえないことです。
徐々に変えていくという気構えが必要です。
このときに考えるべきなのが、「誰を変えていくのか」ということです。
どんな組織でも、3割くらいは「もともと会社が好き」で、
前向きに働いている人たちがいるものです。
そして、「自分はどちらとも言えないな」いう人が4割くらい。
残った3割は、悪いパワーを発している、会社のことを好きではない層です。
さて、まずは誰を変えるべきでしょうか?
気になるのは、悪いパワーを発している3割の人たちかもしれません。
経営者のことを信用しておらず、会社が嫌いで、
何かにつけて陰で文句を言うような人ですね。
しかし、私たちが組織改革に関わるときは、
「自分はどちらとも言えないな」いう4割の層を変えていきます。
そのために、前向きな3割の層に「このまま頑張っていいんだよ」という承認を与え、
さらに会社を好きになってもらう。
そして、その3割の社員や私たちが関わることで、4割の層を振り向かせていくのです。
悪いパワーを発する3割の層については、極論を言えば、
組織が徐々に変わっていく過程で自然と去っていきます。
そうなると「今までは何だったんだろう」と思うくらい、会社は急激に変わります。
もちろん、彼ら自身が変わってくれる可能性もあります。
私はそうした実例を、数百という規模で見てきました。
ただ、組織を変える上で重要な、忘れてはいけない人がもう一人います。
実は、こうした変化を阻害しているのは、経営者自身でもあるのです。
そうした社長の特徴は「採用が甘い」こと。
難しいことに、人が良く、人を好きな社長ほど、採用が甘くなってしまいがちなのです。
面接の場で応募者の良い面ばかりが見えて採用したものの、
会社にいまいちフィットしてくれなかった……。
そんな経験はないでしょうか?
しかし、「自分たちはどうありたいか」という存在目的が明確であれば、
そしてコアバリューという「働く上での価値観」が明確であれば、
それを曲げてまで「この人を採用したい」と思うことはないはずです。
さて、あなた自身は、いかがでしょうか。
(安東邦彦)