コンサルティング
ブレインマークスでは繰り返し、
「経営者は『職人』が陥るパターンから脱出し、『起業家』になければならない」と
お伝えし続けてきました。
もし「職人」のまま経営をすると何が起こるのでしょうか?
今回は、その典型的なパターンを私自身の経験を交えながら紹介します。
業種や地域に関わらず、共通する点も多いはずです。
起業家としての、経営者の本来の仕事は何なのか?
経営者が現場で休む間もなく働くことの何が問題なのか?
あなたの会社を変革する第一歩は何なのか?
職人経営者が起業家になるには、まずは自らを知ることが問題解決の糸口となるのです。
■「典型的な職人経営者」:経営者が売上のほとんどを稼ぐ
「起業家になるにはどうすればいいのか?」と考えて発信し始めたのは、
私自身が典型的な「職人経営者」として、もがき苦しんだ経験がきっかけとなっています。
ここから私の体験も含めて、「職人経営者」が陥る典型的なパターンを2つ紹介します。
1つ目は、経営者が売上のほとんどを稼いでいる、というパターンです。
私が創業した当時は、時代の流れにも助けられ、創業翌年から黒字。
その後の7年間、前年比の売上を上回る成長を続けていました。
周囲からも順調に成長をしているように思われていました。
しかし実際には、コンサルタントとして経験を積めば積むほど私ばかりが忙しくなり、
売上の6割は私自身がたたき出していました。
「業績が伸びる」→「忙しくなる」→「人を雇う」→「トラブルが起こる」→「規模縮小」
の繰り返しでした。
図1
「職人社長」が陥る負のスパイラル
さらなる成長を目指して新たに人を雇用したはずなのに、
それがトラブルとなるのです。
どんなに私の考えを社員に語りかけても
本当にそれが伝わっているとはとても思えません。
毎日のように社員を怒鳴り散らしていました。
根底には「何で自分ばかりが……。お前らがもっと働いてくれよ」という
気持ちが常にありました。
その気持ちは満たされることがないので、どんどんイライラが募ります。
そのイライラが伝染し、会社の雰囲気もどんどん悪くなっていきました。
人のミスを喜ぶ社員がいれば、足を引っ張る社員もいます。
社員を褒めても、たしなめても、なだめても、
この状況が改善することはありませんでした。
■7年間の努力が水の泡に
こんな状態の会社がうまくいくわけもなく、
やがて社員の半数が一斉に仕事をボイコット。
互いに歩み寄れぬまま彼らは退職していきました。
悪いことは続くもので、それから2カ月後、
取引先と散々揉めた挙句、契約解消という事態となりました。
一気に売上は3分の1にまで落ち込み、またしても社員は去っていきました。
ゴタゴタは約半年続き、残ってくれた社員は、
創業メンバーである女性社員1人とアルバイト1人だけでした。
「会社を成長させるためにはどうすればいいのか?」と常に考え
7年かけてコツコツ業績を伸ばしてきたのに、
あっという間に創業当時の規模に戻ってしまったのです。
会社を立ち上げてからというもの、寝る間も惜しんで働いてきました。
その7年の努力が水泡となった気分でした。
この経験は今から8年ほど前の話です。
このころの私は、何のために会社を始めたのか、
そして、これ以上何をどう努力していいかもわからなくなっていました。
会社に対する情熱は消えかけ、仕事にも嫌気がさしていました。
■「典型的な職人経営者」:「業績を上げる=社員の幸せ」だと考えている
では次に、2つ目の職人経営者のパターンを見てみましょう。
「業績を上げることが社員の幸せだと考えている」というものです。
ある保険代理店は業績も順調に伸ばし、
ここ10年で7人だった社員を25人にまで増やしました。
この保険代理店の経営者も、「売上を上げれば、社員は幸せになれる」と信じていました。
ところが、1人の女性社員が
「子どもの教育にお金がかかるので給料を上げてほしい」との
要求を持ちかけてきたことからトラブルは始まったのです。
彼女は一番の古株社員です。
しかし、これまで定期的に昇給を重ね、現在の年収は500万円を超えています。
彼女の働き、社内でのポジション、
そして会社の売上とのバランス等々を考慮しても、
十分な報酬を支払っていると考え、要求を丁重にお断りしたそうです。
その後なぜか、他の社員やアルバイトの退職が相次ぐという事態が発生しました。
原因は、彼女が社員やアルバイトをいじめ、辞めるように仕向けていたのです。
従業員の数が減り、彼女に頼らざるを得ない状況になれば、
「昇給要求も通る」と考えたのでしょう。
結局、散々もめた結果、彼女には退職してもらうことになりました。
「会社の問題児がいなくなり、売上に集中できる」
と思ったのも束の間、半年も経たないうちに、
今度はナンバー2が突然会社を辞めると言ってきたそうです。
その際、頼りにしている営業担当の社員を何人も引き抜いていきました。
それだけではなく、お客さまも持っていかれました。
10年の歳月をかけて必死にここまで会社を成長させてきたのに、
こんな出来事があって25人にまでなった社員は10人となったのです。
経営者の仕事は、会社の業績を上げることが大切。
それによって社員が幸せになる。
そんな風に考えたことが、そもそもの間違いでした。
図2
中小企業の「職人経営者」典型的パターン
■「職人」に忍び寄る恐怖
ここまでに紹介した事例は、
「経営者本来の仕事を『職人』としての仕事だ」と考え
会社を経営した時の典型的なパターンです。
あなたの会社はどうでしょうか?
私はここ数年、経営者に
「本当に満足のいく経営をできているか?」と問いかけ続けてきました。
すると、実に多くの経営者が、
私と同じく朝から晩まで働き、社員の幸せを考え、お客さまの役に立ちたいと願い、
会社を成長させようと懸命になっているにもかかわらず、
社員との間には溝があり、トラブルが続き、火消しの役回りになっていることに気づきました。
経営者本来の仕事をやれているのかと日々考え、経営理念を社員に語っても、
一向に社員に浸透しない。
故に会社に一体感は生まれない。
それどころか、人を雇うたびに新たなトラブルが発生するため
心が休まる暇などないのです。
そしてまた、その解決に奮闘するのも経営者自身です。
事業を成長させるためにやらなくてはいけないことが山積みなのに、
これではいくら時間があっても足りません。
そして、そこまでしてもなお、
将来に不安を感じているのが中小企業経営者の実態なのです。
繰り返しになりますが、
業種や地域が違っても中小企業が成長できない原因は、
「『職人』にこだわったまま会社経営を続けるしかない」と考えていることにあります。
決して「職人」をけなしているわけではありません。
何かを極める「職人仕事」は素晴らしいものです。
しかし、あなたが経営者になるには、
「あなたが職人意識をもったまま、会社経営に取り組んではいけない」と申し上げたいのです。
会社を成長させて、社員がイキイキと働く会社をつくりたいと考えるなら、
あなたが主役の会社ではなく、
社員が主役の会社に変えていく努力が必要なのです。
また、起業家としての経営者本来の仕事は、
将来像をデザインし、その実現のために汗を流し、
知恵を絞ることをしなければならないのです。
まずはそのことを認識することが、変革の第一歩です。
(安東邦彦)