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今回は、書籍『イノベーションと起業家精神』(後編)を中小企業に生かす方法についてご紹介します。
前編の主軸は、「起業家精神の定義」や「イノベーションの起こし方」でした。これに対し、後編である本書の主なテーマは「起業家精神を発揮するためのマネジメント法」となっています。つまり、「イノベーションを起こすためには、組織をどのようにマネジメントすればよいか」が論じられているということですね。
本書には、既存企業およびベンチャー企業のマネジメントに役立つポイントが数多く示されています。今回はそんな本書の中から、中小企業の経営にとって特に参考になる点をピックアップしてご紹介します。
本書において、ドラッカー氏は『既存企業において、最もイノベーションを妨げる原因となるのは「既存の事業そのもの」である』と述べています。もう少し詳しく言えば、「既存の事業が上手くいっている」「これでいい」という考えが、結果としてイノベーションを妨げるということですね。
「上手くいっている、これでいい」と考えて現状の保守に入ると、新しい変化は起きにくくなり、PDCAも回らなくなります。イノベーションを目指すのであれば、現状に満足せず新しいことに挑戦し続ける姿勢や、挑戦の結果について「なぜ上手くいった/いかなかったか」を分析する仕組みが求められるのです。
成功した挑戦を分析し、成功の理由を見つけられれば、それはそのままイノベーションの種になります。また、挑戦の結果が失敗だった場合も、分析して原因を突き止めれば、貴重な情報として次に生かすことができますね。イノベーションを起こすには、このように「変化をチャンスとみなす」環境を作ることが大切なのです。
また、変化を重視するという意味では、組織の中に継続的に若手を入れることも必要です。新しいメンバー、世代の違うメンバーが入れば、それだけ「違う視点に基づく意見」も入りやすくなり、より変化を起こしやすい環境を実現できるでしょう。
新しいことに挑戦する際は、併せて「成果の測定」が必要です。つまり、「どんな挑戦が、どのくらい上手くいった/上手くいかなかったか」を可視化するべきだということですね。
本書では、具体的に次のような点を測定するよう提案しています。
このように、挑戦の成果をさまざまな角度から測定し、その結果に基づいて今後の戦略を立ててみましょう。成果を測定することは、ビジネスをゲームとして楽しむことや、次の挑戦へのモチベーションを維持することにも繋がります。
イノベーションの起こりやすさは、人事制度や報酬制度によっても左右されます。
たとえば、「失敗すると給与が下がる」といった減算方式の報酬制度は、社員の恐怖心を煽って保守の姿勢を加速させます。すると、新しいことに挑戦する意欲が削がれ、イノベーションも起こりにくくなるのです。
これを防ぐには、チャレンジが報われるような制度設計が必要となります。成功・失敗や成果の大小に関わらず、「挑戦したこと」そのものが肯定的に扱われるような体制があれば、社員は新たな挑戦を行いやすくなり、自然とイノベーションも起こりやすくなるでしょう。
また、「変化を起こしやすい組織づくり」という意味では、トップダウン型ではなく”全員でチームを運営していく”体制づくりも必要です。イノベーションを起こすためには、一人の考え方ばかり見るのではなく、メンバー全員で意見を出し合えるような環境が適しているということですね。
活発な意見交換のためには、社員が心置きなく意見を発せるような風土の醸成も必要となるでしょう。総じて、社員が安心して新しいことに挑戦できるような組織体制の構築が、イノベーションの実現に繋がるといえます。
起業家精神をもって継続的にイノベーションを起こし続ければ、組織は健やかに成長していきます。そして、変革し続ける組織を目指すのであれば、まず「イノベーションを起こしやすい組織」をマネジメントする必要があるのです。
今回ご紹介した以外にも、本書にはマネジメントのさまざまなヒントが提示されています。ぜひ前編と併せてご覧になり、貴社をますます進化させるための力に変えていただければと思います。