コンサルティング
エンゲージメントの文脈では、飲み会や旅行、かっこいいオフィスへの改修を通して、
会社に対する社員の愛着を高めようとする取り組みがあるようです。
確かに大切なことかもしれませんが、これらは表面的な打ち手にしかならないでしょう。
オフィスをかっこよくすれば、一時は採用も進むかもしれません。
求職者も「目に見えるもの」に惹かれがちなので、
これに対応する必要があるのはよくわかります。
でも気づいてみれば、採用数以上に離職数が増えている、
といったことにもなりかねません。
長い目で見ると、ハード面ではなく、最終的にはソフト面での仕組みや
会社のあり方が問われるはずです。
優秀な社員が離職していくのは、未来が見えなくなったときです。
社員のキャリアに対して責任をもたず、社員と一緒に「なりたい姿」を描いていない会社は、
優秀な人から辞めていくものです。
今回は、こうしたエンゲージメントの基本的な考え方について、
私自身の経験も交えてお伝えしようと思います。
私は以前に役員を務めていた通信系ベンチャーで、
当時の経営者から「次の社長は安東さんだね」と言われていました。
当時の私は営業を統括する役員でしたが、序列としては5位くらい。
そんな状況で、こっそり後継指名を耳打ちされたわけです。
その社長にはいつも「安東は俺の思ったとおりに育っている」と言われていました。
しかし私は、そう言われるたびに違和感や閉塞感を覚えていました。
「この人には逆らえないな」という気持ちの一方で、
「あんたに育ててもらったんじゃない、俺が自分で育ってるんだ」
という気持ちが芽生えて、窮屈な思いをしていたのです。
なぜそう感じてしまったのか。
結果的に当時の社長は、人を支配しようとする、
人をコントロールしようとする言葉で私に接してしまっていたのでしょう。
誰だって、他人に思うままにコントロールされて気持ちよく感じるはずがありません。
経営者が社員のキャリアに対して責任をもつことは、言うまでもなく大切です。
同時に、なるべく人をコントロールしようとせずに、
社員が「なりたい自分」になれるよう後押しするべきなのです。
もちろん経営者としては、絶対に譲れない部分もあるでしょう。
社員の「なりたい自分」が会社の理念や将来像と相容れないものならば、
別れざるを得ないのかもしれません。
キャリア開発の有名なフレームワークに、
リクルートで用いられている「WILL」「CAN」「MUST」があります。
「WILL」……自分は何がしたいのか
「CAN」……自分は何ができるのか
「MUST」……自分は何をしなければならないのか
これらを自己分析し、自分のやりたいことと会社のやりたいことを
重ね合わせていくという考え方です。
もちろん、どれだけ考えても両者が重ならない人もいるでしょう。
考えに考えを重ねて、それで会社を辞めていくのであれば、
本人のキャリアにとってマイナスにはならないはずです。
そもそも人の「WILL」、つまり「なりたい自分」は、
他人がコントロールできるものではありません。
経営者は、一人でも多くの社員の「なりたい自分」とつながるように、
いい会社をつくっていくしかないのです。
(安東邦彦)