コンサルティング
古くからあるのに新しい「社内コミュニケーションの課題」
私たちが組織作りを支援していく中で、必ずと言っていいほど直面するのが
「社内コミュニケーション」にまつわる課題です。
これは何も、最近になって生まれたものではありません。
古くからどんな組織にもある課題です。
しかし一方では、ITの浸透によってコミュニケーション手法は
かつてよりも幅広く、多様化しています。
メールはもちろん、グループウェアやイントラネット、
社内SNS、社内ブログ、LINEに代表されるメッセージアプリなど、
多岐にわたるコミュニケーションツールをどうやって活用していくべきなのか。
「電話は非効率だ」と考える人もいれば、
「文章だけのやり取りでは不十分だ」と考える人もいるでしょう。
その裏側には、「ITだけではカバーしきれないコミュニケーションの課題」も
見え隠れしています。
そこで今回は、IT利用による社内コミュニケーションの限界を超えるために、
何をしていくべきなのかを考えます。
課題のとらえ方は役職・階層によって大きく異なる
『マイナビニュース』が実施した
「社内コミュニケーションの状況・課題」に関するアンケート調査では、
社内コミュニケーションに「課題があると感じるか?」との質問に対して、
「大いに感じる」と「やや感じる」の合計が過半数を占め、
「まったく感じない」は8%にとどまっていました。
しかし、この調査結果を役職別で見てみると、まったく違った結果だったのです。
下図は同調査での、役職別に同じ質問をした際の「経営者・役員クラス」の結果です。
驚いたことに、この属性では「まったく感じない」「あまり感じない」の合計が
78%となっています。
ちなみに一般社員では、「大いに感じる」「やや感じる」で55%となっており、
全体の結果よりも課題ありの割合がさらに増えています。
同じ社内でも、役職や階層によってこれだけ認識が違うのです。
「非リアル」のコミュニケーションには限界がある
次に、ITを活用した社内コミュニケーションのツールについて、
ビジネスパーソンがどんなデメリットを感じているのかを確認します。
下図はITに関する総合情報サイト『キーマンズネット』が行なった
「ITによる情報共有の取り組み状況」に関するアンケート調査からの抜粋です。
ITツールのデメリットを聞いています。
上図でまず見ておきたいのは、「ITツールをいかに使うか」が
依然としてトップの課題であることです。
2位の「情報に辿り着くまでに時間がかかる」というのも、
大きくはこの範疇に含まれるでしょう。
ここで同時に注目したいのが、赤色で示した
「ITツールに頼りすぎて生のコミュニケーションが薄くなった」の部分です。
ここに、ITの限界が示されているのではないでしょうか。
ITツールによる社内コミュニケーションと、
生のコミュニケーションから受け取る情報には違いがあることは当然です。
両者の性質の違いを認識したうえで、いかにしてギャップを埋めていくか。
これが経営学者やITツールを開発する当事者たちの議論の的になっています。
ITの「ボディランゲージ」に気をつけろ
当事者の一人、慶應義塾大学大学院経営管理研究科の清水勝彦教授は、「インドで開かれたある学会での、インテル社マネジャーのプレゼンが印象深かった」と語っています。
要旨としては、
「共通言語がないとITは機能しない」
「コストはかかっても、フェースtoフェースであることは非常に重要」
「ITの『ボディランゲージ』に気をつけろ」
というものです。
上記、「ボディランゲージ」については補足が必要でしょう。
このマネジャーは、
「コミュニケーションは言った・言わないなどのデジタルなもの(0か1か)では必ずしもなく、『こんなことを言っているけど大丈夫だろうか?』といった、はっきりとは言葉にできないような懸念をすくい取る機能もある」
としています。
そのために彼は、ITでの公式な情報交換以外に、
非公式なネットワークを社内に張り巡らせているのだそうです。
つまり、ボディランゲージとは「言葉にはしづらい情報」のこと。
現時点で、ITが苦手としていることです。
経営者の思いは、社内に一通のメールを送っただけでは伝わりません。
ブログに綿密に書いたとしても、言いたいことのすべてが伝わるわけではありません。
ITツールは情報共有の手段としてはとても便利です。
しかし、そこに頼り切っていては、社内コミュニケーションは深まりません。
面と向かって経営者の口から発せられる一言のほうが、社員に強く響くこともあるのです。
また、下のメンバーは普段、
上司に「言いたいことをなかなか伝えられない」と悩んでいるかもしれません。
時には、社員と生の声で、「言葉にはしきれない感情」をすくうような
コミュニケーションを図ることが大切なのでしょう。
(安東邦彦)