コンサルティング
業績が伸びていても、そうでなくても、
中小企業の社長の多くは自らが朝から晩まで働き、
トラブルの処理に走り回り、プライベートの時間はほとんどない。
そして、多くの社長がその泥沼から抜け出せない。
それがコンサルタントとして500社を超える企業を支援した中で、
私が見た「社長の現実」でした。
なぜ中小企業の経営は行き詰まってしまうのでしょうか?
■「成功者の神話」の裏側にあるもの
「創業後10年のうちに8割の中小企業が倒産している」という
非情なデータがあります。
その後の10年間で生き残る企業の数はさらに減り、
意気揚々と旗揚げした会社が20年後にも存続できている割合は
1割にはるかに満たないというのが現実です。
日本国内にある400万件以上の中小企業のうち、毎年約6%が廃業しています。
わかりやすく換算すると、1日に700社以上が消えている。
つまり、毎日700人の社長が会社と仕事を失い、
その従業員たちが再就職先を探しているというのが現実です。
ゼロから一代で巨万の富を築き上げたきらびやかな「成功者の神話」が
巷に溢れかえっている昨今。
しかしその陰には、誰に知られることもない不幸な
中小企業経営者の人生が何千、何万と横たわっているのです。
■ほとんどの社長は朝から晩まで働いてばかり
私は売上拡大を支援するコンサルタントとして
500社を越える企業の経営者を支援してきました。
その中で、多くの中小企業経営者の悲鳴を聞きました。
どれもこれも切実なものばかりです。
「やる気のある人材が集まらない」
「ナンバー2が突然辞めてしまった」
「社員が顧客を連れて独立してしまった」
「会社がまとまらない」
「業界自体が厳しくなってきている」
「会社の将来像が見えない」
「24時間仕事のことが頭から離れない」……
こうした悩みをもつ社長は、
顧客の期待に誠実に応えるために自らも額に汗して働き、
そして社員の幸せを強く考えているような誠実な方々でした。
人間的に誠実で、バイタリティがある人物にもかかわらず、
経営に苦しんでトラブルばかり。
なぜ、社長が貯金・時間・体力・人脈・人生のすべてを投資し、
必死に経営をしているにも関わらず、
数十年後にはほとんどの会社が倒産してしまうのでしょうか?
■中小企業が失敗する原因には共通点がある
そうした経営者は、いつから間違った進路に進んでしまったのでしょうか。
社員を雇い入れたときから?
業界を取り巻く状況が激変したときから?
無理な借り入れをしたときから?
それらは、会社が成長する過程で犯した間違いの一つではあったかもしれません。
しかし、真の原因ではありません。
中小企業が失敗する根本原因は、
そもそもの「独立起業の間違った考え方」にあるのです。
それは、
「専門的な能力があれば、会社を経営できる」という思い込みです。
それはつまり、
・パンを焼くのが上手→パン屋を経営できる
・美容技術に優れている→美容室が経営できる
・勉強を教えるのがうまい→学習塾を経営できる
・税理士資格を取った→税理士事務所を経営できる
・営業力がある→保険代理店を経営できる
といった思い込みです。
■あなたは本当に会社を経営できているのか?
例えば、実際にパン屋を始めてみると、
社長はおいしいパンを焼くことだけに没頭していればいいというわけにはいかなくなります。
帳簿をつけたり、人を雇ったり、資金繰りを考えたり……。
これまでに経験のない仕事が次々と追いかけてきます。
考え得る限りの準備をしていたという人でも、
実際に社長という立場になってみると、
頭の中で考えていたのとはまったく別物ということを実感することでしょう。
あなたの会社を本当に成功させたいと思うなら、
たしかに「パンをおいしく焼く能力」は必要です。
しかしそれだけでは通用しないのです。
自分自身が、「職人」として中心となって働き、
その働きによって会社の利益のほとんどを稼ぎ出すような会社を経営している。
このことがほとんどの中小企業が失敗する原因を作っているのです。
ずっと個人事業主として1人で働き続けるのであればそれも選択肢の一つでしょう。
しかし、あなたが会社を成長させたいと考えるなら、
あなたは現場の仕事以外にやるべき仕事があります。
会社はどこに向かい、何を実現するのか?
顧客にどのような価値を提供するのか?
そのときの従業員はどのような状況になっているのか?
それを考えるのは社長しかいないのです。
(安東邦彦)