今回のテーマは、「評価制度が利益を圧迫する!?」です。
先日、「評価制度によって利益を圧迫しないためには、どうすればよいか」というご相談をいただきました。評価制度の導入を検討していた矢先に、知人の経営者から『評価制度を入れたら、売上は伸びないのに社員への支払いばかり増えて利益を圧迫している』という話を聞き、不安を覚えておられるのだそうです。
身近な人の失敗談を聞けば、不安になるのも当然ですよね。しかし、私は「正しい設計と運用を行えば、評価制度は会社の成長に必須の経営ツールになる」と考えています。
詳しい状況が分かりかねるため一概には言えませんが、ご相談内容にあった失敗の原因は恐らく、「評価制度を導入したことそのもの」ではありません。実は、評価制度が機能しない、経営の足を引っ張るといったトラブルの背景には、以下のような課題が隠れていることが多いのです。
そこで今回は、2つの原因を詳しく掘り下げつつ、評価制度を会社の成長に活かすためのポイントをご紹介します。
はじめに、「評価制度と社員の成長が連動していない」について解説します。
まず前提として、私たち経営者は「社員の成長=会社の成長」と考える必要があります。社員一人ひとりが成長するからこそ組織力が高まり、売上や利益も伸びていく。ですから、人事評価制度も「社員の成長を支援するツール」と捉え、社員の成長と連動するような制度設計を行う必要があるのです。
この認識を持てず、評価制度を「人を査定するツール」と捉えると、評価制度と社員の成長が連動しなくなってしまいます。単に「ここができている、ここができていない」と査定するだけでは、社員は結果に一喜一憂こそすれど、継続的な成長には繋がらないということですね。
評価制度と社員の成長を連動させるには、制度を通じて”社員が自ら成長に向かっていけるような状況”を作る必要があります。具体的には、以下のような点を意識した制度設計を行い、社員に「成長の道筋」を示してあげるとよいでしょう。
・会社が求める「理想の人材像」を明確にする
・「何ができればどんな評価が得られるか」を明確にする
・成果に対する評価だけではなく、行動特性への評価も盛り込む
求める社員像や評価の基準を明確にすれば、おのずと「成長のために何を頑張ればよいか」も明確になり、社員は自分の状況に合った目標を立てられるようになります。また、数値的な成果だけでなく行動特性(コンピテンシー)への評価も行うことは、偶発的な要素による評価のブレを防ぎ、社員の能力や頑張りをより正しく理解することに繋がります。
このような設計を行えば、評価制度を通じて社員の成長を支援することができます。評価制度によって成長の道筋を示しつつ、社員一人ひとりがPDCAを重ねて着実に成長していけるような環境を整えることで、組織全体の力も成長させていけるということですね。
次に、②の「昇給の幅が適切ではない」についてご説明します。
「昇給の幅が適切ではない」とは、言い換えれば「給与の上昇スピードが、会社の成長スピードを上回っている」ということです。こうなると、ご相談にあったような”評価制度が利益を圧迫する”事態が生じかねません。これを防ぐためには、自社の成長率を基に適切な昇給幅を定める必要があります。
大企業では年間の昇給率を3~4%に定めていることが多いのですが、私たち中小企業の場合は「年間1~1.5%」をひとつの目安にするとよいでしょう。十分に成長が見込めるなら1.5~2%、厳しいと思われるなら1%といった具合に、自社の状況に応じて上り幅をコントロールするのです。
なお、言うまでもないことですが、昇給率を必要以上に低く定めるのも「適切」とは言えません。成長し続ける会社になるためには、社員への還元と利益のバランスをいつも健全に保つべきだということですね。
人件費が経営を圧迫する状況は避ける必要がありますが、給与が上がらない会社では人が育たず、組織として成長できません。評価制度を導入する際には、会社も社員も納得感をもって成長できるような制度設計を行うことが大切です。
評価制度を成長支援ツールと捉え、社員の成長に繋がるような設計を行う。そして、自社の成長状況を把握して、利益と人件費のバランスを適切に保てる昇給幅を設定する。
正しい制度設計のもとで運用すれば、人事評価制度は会社にとって非常に頼もしい経営ツールになるはずです。はじめは完璧でなくても構いません。ぜひ、少しずつ改善を重ねながら、貴社にフィットする評価制度作りにチャレンジしてみてください。