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今回のテーマは「中小企業の人的資本経営とは」です。
先日、あるクライアントから「最近、人的資本経営と言う言葉をよく聞きます。これは中小企業でも取り入れたほうがいいのでしょうか。また、今までの経営方法と何が違うのでしょうか」とご質問をいただきました。
人的資本経営とは、ざっくり言えば「人材を資本と捉え、人の価値を引き出すことで企業価値を高める」という経営の在り方のことです。近年では、持続可能な社会や働き方の多様化を目指す時代の流れに伴って、次第にこうした考え方が広まるようになってきました。
たとえばアメリカでは、2020年から上場企業に対して「人材の力が組織の成長にどれくらい貢献しているか」という人的資本情報の開示が義務付けられています。今後は日本でも、同様の傾向が強まっていくでしょう。
そして私は、大企業よりも中小企業にこそ、人的資本経営の考え方が役に立つと考えています。そこで今回は、人の価値を高めると企業も成長する理由や、人という資本に投資する際の考え方についてお伝えします。
なぜ、人的資本経営が中小企業を伸ばすのか。それは、既に完成された仕組みの中で人を運用する大企業と違い、中小企業は「今まさに仕組みを構築し、会社を作りあげている最中」だからです。
仕組み化を進めて会社を作り上げることは、建物を建てることと似ています。建物であれば、建築にあたる人のレベル上げや適切な配置が、作業のスピードや仕上がりのクオリティを上げることに繋がりますよね。会社づくりも同じように、人の価値を高めて活かすことが、組織を強くすることに連動するのです。
この感覚を掴めないと、私たち経営者は人件費を「コスト」と考えてしまいがちです。確かに、社員にかけるお金を少なくすれば一時的に利益は増えるかも知れませんが、それは長期的な企業価値の向上とは結び付きません。
会社を成長させるには、目先の利益を確保するだけでなく、自社が社会に提供する価値を継続的に高めていく必要があります。そして、社会に価値を届けられる強い組織になるためには、人材を大切な資本と考えて十分な投資を行い、その力を引き出すことが不可欠なのです。
次に、人的資本投資の具体的な方法について考えてみましょう。
「人材に投資する」とは、採用や教育、良好な労働環境の確保に十分なリソースを投入することです。たとえば弊社の場合は、会社の描く未来にコミットしてくれる人を慎重に選び抜くため、年間で一千数百万円の採用予算を確保しています。弊社の規模に対してかなり手厚い金額といえますが、私はこれを会社の成長のために欠かせない投資だと考えています。
そして、人への投資とリターンを考える際には、「個人ではなく全体を見る」視点も重要です。
例として、「ひとりの採用につき200万円のコストをかけ、新人ひとりにつき年間500万の給与を払う」ケースを想定してみましょう。つまり、新人社員ひとりに最初の1年間で700万円を投資することになりますね。このような場合、私であれば「700万円の投資を概ね2年で回収する」ことを目安とします。
このとき、「この人はリターンが早くて優秀、この人は遅いからダメ」と個々をジャッジするのではなく、「全体平均として2年前後でリターンできていれば、全員OK」と捉えることが大切です。なぜなら、「優秀な個人」ではなく「全体」の力を活かし、全体のレベルを上げていく目線を持たないと、特定の人の力ばかりに依存する構造ができてしまうためです。
長期的、かつ全体的な目線をもって人材に投資すれば、個々の強み弱みを内包しつつも人的資本全体の価値を高め、個人の力に依存することなく成長していく組織を実現できるということですね。
「人的資本経営」という言葉からは耳慣れない印象を受けますが、これまでに弊社のYouTubeやブログで取り上げてきた話題は、どれも人的資本経営の考えと根本を同じくするものばかりです。
目先の利益を追求するのではなく、社会への継続的な価値提供の対価として成長を続けられる組織を目指すこと。そのために、会社の理念や価値観に共感してくれる人を雇い、その人たちの強みをしっかりと育てて活かし、個人ではなく全体の力によって企業価値を高めていくこと。
こうした姿勢が中小企業にとって大切だと感じていただけるならば、あなたは既に人的資本経営の考え方を身に着けておられるのでないでしょうか。
人材の価値と企業の価値の連動性を見つけ、人への投資のリターンによって会社を成長させていく。是非、この考え方を通じて、皆さんの会社の価値をますます高めていただければと思います。