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今回は、書籍「チェーンストア経営の原則と展望」を中小企業に活かす方法についてご紹介します。

著者の渥美俊一さんは、日本の小売業界を牽引してきたといわれる著名なコンサルタントです。元新聞記者として世界中のチェーンストア経営を分析してきた知見を活かし、チェーンストア経営研究団体や、チェーンストア経営専門のコンサルティング機関を設立。ダイエーやイトーヨーカ堂など、日本を代表する流通企業の隆盛に寄与されました。

本書には、店舗の立地や構造といったチェーンストアの原則に加えて、あらゆる業界に通じる「経営の本質」ともいえるマネジメントの原理が示されています。今回は、本書の中でも特に中小企業に関係が深い項目に焦点を当て、その内容と私の見解をお伝えします。

■経営には「ロマン」が必要

本書を記した渥美さんは、「経営には“ビジネスを通じて日本社会をより豊かに変えよう”というロマンが必要であり、そのロマンこそが人を惹きつける」と説いています。ロマンを「理念」や「夢」といった言葉に置き換えると、よりしっくり来るのではないでしょうか。

本書では、チェーンストア経営の目的を「国民大衆の暮らしを充実させるための生活提案をすること」と定義しています。そして、その目的の実現のためには、できるだけ大衆的かつ暮らしを便利・快適にできるような商品を扱うほかに、商品の豊富感や親しみやすさ、清潔感といった店舗のムード演出も重要であると書かれています。

中小企業の経営にも、同じことが言えるでしょう。まずは経営におけるロマン（理念）をしっかりと定め、あらゆる部分でロマンに基づいた工夫を行うのが大切だということですね。

■マネジメントの3原理

続いては、マネジメント（経営）における原則についてです。本書では、マネジメントの行動原理として、①スタンダーディゼーション（標準化）②シンプリフィケーション（単純化）③スペシャリゼーション（差別化）の3つを挙げています。それぞれについて、詳しい内容を見てみましょう。

• スタンダーディゼーション（標準化）

「標準化」とは、良い企画や面白い企画を作り、それを徹底して実施しつつ、継続してブラッシュアップを行なうことです。よくある意見として「標準化を重視すると、人の個性や自由な発想が損なわれる」というものがありますが、それは悪しき企画がまかり通っているからに過ぎません。本当に良い企画の標準化には、むしろ人の創意工夫が不可欠なのです。

• シンプリフィケーション（単純化・簡素化）

「単純化」とは、より素早く正確に作業をこなせるよう、業務をシンプルにすることです。複雑な業務や、大勢で分業する必要のある業務も、繰り返し工夫を凝らしながらシンプルに洗練させていくことで、誰もがスムーズにこなせるようになります。

• スペシャリゼーション（差別化）

「差別化」とは、他社では真似のできない仕組みや価値を生み出し、それを維持することをいいます。個性を重んじながらも①の標準化、②の単純化を追求することで、おのずと差別化が叶うでしょう。

■経営の本質は変わらない

本書では、経営計画の実現のために「スケジュールを立て、調査・実験に基づいて決まりを作り、指示・命令を出し、教育を行ない、随時修正を加えながら目標を実現させる」というプロセスを繰り返すよう説いています。より現代風の言葉に言い換えれば、「PDCAサイクルを回す」ということになりますね。

また、先にご紹介した業務の標準化・簡素化は、個人の能力に依存することなく高い価値を提供し続けるために必要不可欠な取り組みだといえるでしょう。そして、PDCAを回しながら徹底して標準化・簡素化を追求することで、自社ならではの強みが作り出され、経営はより盤石なものとなっていくのです。

これらは、業界や時代を問わず共通する経営の本質だといえるでしょう。時世や流行に振り回されすぎずに経営の原理・原則をしっかりと実践し、ロマン（理念）を目指し続けることが、よりよい会社経営を実現するための秘訣なのではないでしょうか。

■本日のまとめ

本書の著者である渥美俊一さんは既に他界されていますが、その教えは多くの経営者たちの心を動かし、ジャスコ（イオン）やニトリといった名だたる企業の成功をもって、今日も体現され続けています。

昭和61年に初版発行された本書は、新しい本ではないかも知れません。しかし、これからさらに時代が進んでも、本書に記される経営の本質は変わることはないでしょう。

ぜひ皆さんも本書をご覧になり、不変の原理・原則をしっかりと血肉に変えていただければと思います。