今回のテーマは「1on1をいらないという社長に見えないもの」です。
先日、経営者の方から1on1についてご質問をいただきました。
「安東さんは月1回以上の1on1を推奨されていますが、それは社員とあまりコミュニケーションをとっていない場合ですよね? 日常的に社員と話しているのであれば、1on1は必要ないようにも思うのですが……」
これは、弊社のクライアントを含む多くの経営者からしばしばいただくご質問です。しかし、結論から申し上げると、私は「日頃から社員としっかりコミュニケーションをとっている場合でも、月1回の1on1は必要」と考えています。
なぜなら、1on1は社員との親睦を目的に行うものではないため。1on1には、日常のコミュニケーションでは補うのが難しい重要な役割があるのです。
「社員とは日頃から十分にコミュニケーションをとれている」という場合の「コミュニケーション」は、雑談や食事、飲み会といった業務外のコミュニケーションを指していることがほとんどです。そして、こうしたコミュニケーションは、主に社員と経営者の距離を縮め、信頼関係を築くことを目的としています。
これに対し、1on1は「社員の状況把握」と「進捗確認」のために行うものです。
状況把握とは、その人の強み・弱みや仕事の得手不得手、抱えている仕事量、心身の状態などを把握すること。進捗確認とは、たとえば「半期目標に対する現在の達成状況」や「今月できたこと、うまくいかなかったこと」などを確認することです。これは、PDCAでいう「C」の機能と捉えられます。
もちろん、雑談などを通じて社員と信頼関係を築くことは大切です。しかし、生じるタイミングも使える時間もまちまちな雑談の中で、社員の状況を詳しく把握したり、目標の話を出して進捗を確認したりするのは現実的ではありません。だからこそ、1on1という専用の機会を設け、定期的に実施する必要があるのです
ここで意識したいのは、「状況把握や進捗確認は、社員を問い詰めたり、目標達成を急かしたりするために行うものではない」ということです。
状況把握と進捗確認は、あくまでも社員のPDCAを支援するために行うもの。まず「PDCAの支援」という大目的があり、その目的を達するために状況把握と進捗確認を行うと考えるとイメージしやすいかと思います。
なぜ、わざわざ時間と手間を割いてPDCAをサポートする必要があるのか。それは、どんなに優秀な人材であっても、自分一人でPDCAを回し続けるのは難しいためです。
特にありがちなのは、ひたすらDo(行動)ばかりを繰り返すことでPDCAサイクルが止まってしまうケース。課題に対して真剣に向き合えば向き合うほど、こうした視野狭窄の状態に陥りやすいものです。それは経営者すらも例外ではなく、だからこそ弊社のようなコンサルティング業の需要があるともいえます。
自分一人でPDCAサイクルを回すのは、それほどまでに難易度が高いということですね。1on1によって定期的に振り返りの機会を作り、第三者の視点を入れつつ課題解決を支援する意味はここにあります。
そして、1on1の継続的な実施は、将来にわたって会社の力を維持・向上させていくためにも役立ちます。
会社の規模が比較的小さく、社員の数が5~10名ほどのうちは、経営者が全員に1on1を実施できます。しかし、やがて会社が成長して社員が20人、30人……と増えていくと、経営者が全員と面談を行うのは難しくなるでしょう。このとき、それまでに継続してきた1on1の経験が活きてくるのです。
会社が成長を遂げるころには、経営者が1on1を実施してきたメンバーはリーダーやマネジャーに成長しているでしょう。彼らは、これまでに経てきた経営者との1on1を通じ、状況把握と進捗確認の流れをある程度習得しているはずです。
その経験を土台に課題解決支援の技術を身に付けてもらえば、彼らに別のメンバーの1on1を任せることができる。このような流れを繰り返せば、社員数が増えても「誰かが誰かのPDCAを支援する」状況を社内全体に行きわたらせることが可能になるのです。
組織の全員がPDCAを回し続ければ、それだけ目標や戦略の実行力も高くなります。会社が成長すればするほど、その力は大きなものとなるでしょう。1on1の定期的・継続的な実施が、この状態を実現するためのカギになるのです。
1on1の目的を「社員との親睦」とみるなら、確かに日常のコミュニケーションでカバーが可能かと思います。しかし、1on1は「PDCAの支援」のために行うもの。社員の、組織そのものの進化スピードを加速させるための、替えのきかない重要な取り組みなのです。
一人につき月に1回、たった60分ほどの投資が、未来に生み出す成果の大きさは計り知れません。ぜひ、みなさんも前向きに1on1にチャレンジし、社内の至るところでPDCAが加速していく素晴らしさを実感してみてください。