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今回のテーマは「スピード重視の社長が自爆する理由」です。
会社を成長させたい気持ちが人一倍強い、という経営者の方からご相談をいただきました。会社の業績目標を毎年高く設定して成長スピードアップに取り組んでいるものの、社員には「やらされている感」が漂うなど、組織の空気が不穏になっているというのです。
ご相談されるということは、このままでは危険だということをご本人も感じ取っているのでしょう。確かに、これは組織崩壊の前兆が出ている状態と言えます。
何故、このような状態になってしまうのか。私自身の経験も交えて詳しくお伝えしていきます。
今回のご相談のように社員との温度差が生じてしまう原因は、経営者が描く「成長のイメージ」に誤りがあるケースが多いです。ご相談者様は「もっと早く成長したい」という気持ちが強いようですが、実はこの考えが大きな落とし穴になります。「成長とは右肩上がりに一直線に上がっていくこと」と思い、高すぎる成長目標を掲げてはいないでしょうか。
何を隠そう、私自身も昔はそのように考えていました。そして数字の成長ばかりを追い求めたために、社員との間に溝ができてしまったのです。それに気が付かないまま突き進んだ結果、組織崩壊が起きてしまいました。
高すぎる目標を掲げて常に全速力を求められると、次第に社員は疲弊していきます。常時全力疾走していれば、当然そのうちに息切れしてしまうでしょう。しかし社長は早い成長を求めるために、息をつく暇も与えられない。この状態が続くと、組織に歪みが生じてしまうのです。
それでは、一体どのような成長イメージが理想なのか。それを考える際に私が参考にしているのが、ヘルマン・エビングハウスというドイツの心理学者が提唱している「学習曲線」です。
「学習曲線」とは学習や訓練に費やした時間や労力を横軸、成長や成果の度合いを縦軸としたグラフで、右肩上がりの一直線ではなく緩やかに波を描いています。そしてその波を何度か繰り返した後に、一気に上昇しているのです。これは、企業成長の型にも通じるのではないでしょうか。
緩やかな波とは、急成長するまでの土台づくり。土台があってこそ、ある時を境に成長が如実に表れるということになります。このヘルマン・エビングハウスの「学習曲線」こそが、強固な土台をつくり着実な成長をするために、経営者がイメージすべき形と言えるでしょう。
そもそも経営者が右肩上がりの成長をイメージして結果を急いでしまうのは、売上や利益といった「数字」でしか成長が実感できないことも要因です。
確かに、数字が一番分かりやすい指標ではあります。しかし組織の成長とは、本当にそれだけを指すのでしょうか?数字が上がるから成長するのではなく、成長したからこそ数字が上がるのです。
企業文化が浸透する、社員の知識が増える、社内の仕組みが整う。数値には表れませんが、これらすべてが組織としての「成長」になります。私たち経営者は、売上や利益といった数値化できる「定量」の成長だけでなく、数値には表れない「定性」の成長も見ていきながら会社経営をしていかなければならないのです。
人間の成長を考えてみても、身長や体重、テストの点数といった数字以外に、気配りや思いやりなど内面的な成長があるはずです。そしてそれは、さまざまな経験をして土台づくりをしていく中で、少しずつ着実に身についていくものになります。
人間が集まる組織も同じです。数字ばかりを追い求めるのではなく、成長するための土台づくりに目を向けて、そこでの成長もしっかりと見ていく。それが、急ぎすぎるスピード重視の社長が自爆してしまうという防ぐことにつながるのではないでしょうか。