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今回のブログでは、企業の採用活動における大きな課題の一つとして「内定辞退の克服」に焦点を当てます。
内定は数々の説明会や面接の後にようやく出せる、採用活動の最終段階。それだけに、内定を出してから辞退されてしまうと、すべてのコストが無駄になり、企業は大きなダメージを受けてしまうこととなります。
場合によっては、企業としての安定した成長戦略や人事戦略の基盤が揺らいでしまいかねません。
日本の労働市場を見れば、深刻な人手不足が続いています。
厚生労働省が発表した全国の2022年9月の有効求人倍率(季節調整値)は1.34倍となっており、高水準を継続。少子化が進む日本では労働人口がどんどん減っていくのは既定の事実であり、仮に景気という要素を外したとしても、人手不足がさらに進むのは決定的です。
こうした状況のなかで、企業にとってダメージの大きい内定辞退を克服していくことは以前にも増して重要になってきていると言えるでしょう。
どうすれば内定辞退を回避できるのでしょうか。内定を出す前後で、企業ができることはたくさんあるはず。以下で詳細に検討していきます。
それでは最初に、内定辞退がどれほど発生しているのかを確認しておきましょう。
下図は就職・転職情報の提供や人材紹介を主業務とするマイナビが行なった、「2019年卒マイナビ企業新卒内定状況調査」からの抜粋です。企業に対して内定辞退率を聞いています。
上図によると、「辞退者なし」はわずか16.1%で、何らかの理由で内定辞退が発生する企業が83.9%もあります。さらに、内定辞退率が4割にも及ぶ企業が最多で、22.6%もあるのです。これはかなり大きな割合です。
上図は新卒採用における内定辞退に関するデータですが、中途採用においても、状況は大きくは変わらないようです。
エン・ジャパンが行なった「中途採用の選考辞退実態調査」によると、直近1年以内に選考辞退が発生した企業は全体の86%で、選考辞退のタイミングを見ると、内定後の辞退が56%にも及んでいるといいます。
それでは次に、学生の意識について確認したいと思います。就職活動に臨む学生が、その活動の中でどんなふうに決断しているかを知っておくことは重要です。
下図は、就職情報の提供や、求人・採用活動に関する企画提案をしている株式会社ディスコが行なった「キャリタス就活 7月1日時点の就職活動調査」からの抜粋です。
2018年卒業の学生に、「就職決定企業で働きたいと具体的に思ったタイミング」を聞いています。
上記調査によると、この会社に決めたと思ったタイミングのトップは「面接等の選考試験を重ねていく中で徐々に」で、29.1%になっています。
就職・採用活動の初期には、お互いに十分な情報をもっていません。選考過程は互いに理解し、選ぶ過程ではありますが、同時に信頼関係を形成していく過程でもあることを物語っています。
一方で、応募者にとって決定打となり得そうな「内定が出てから」という項目は、わずか8.5%に過ぎません。
これが何を意味するかをよくよく考えることが重要です。まず認識しておきたいのは、学生にとって、内定は入社を決める決定的な動機にはならないということです。
図2を見れば、そもそも就職活動の初期段階から気持ちが動き始めているのがわかります。そして「面接等の選考試験を重ねていく中で徐々に」意志を固めていくのでしょう。
つまり企業の採用活動にとっては、早い段階から応募者と率直な話し合いができる体制を作ることが不可欠なのです。
ここで大事になってくるのが、「率直な話し合い」の中身です。
大切なのは自社の強みや弱み、現在と将来の事業領域まで明らかにして、応募者の志望や適性と擦り合わせていくこと。
その際、「応募者が他にどんな会社を受けているのか」「それはどうしてなのか」「働くことに何を求めているのか」といった質問も、タブー視するべきではないでしょう。
これらの質問は応募者の内面をより深く知るのに有効ですし、同じ人材を獲得しようとする他社を把握することで、応募者との交渉をより有利に進められるからです。
もちろん採用活動においては、チャネルを幅広く設けて多様な窓口をもち、応募者との出会いの数を増やすことも重要です。ただ、いくら応募者の数が増えても、これまでと同じことをしていたのでは結果は変わらないでしょう。
企業側には出会った直後から、応募者の気持ちをそらさない働きかけが必要。それは内定を出した後も続けるべきなのです。
そのプロセスにおいて自社の姿をリアルに伝えていくためには、まず採用活動に関わる人たち全員が、自社を正しく棚卸しすることが必要なのかもしれません。
(安東邦彦)