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今回のテーマは「現場から離れたくない社長の悩み」です。
先日、会社を興して20年という経営者の方からご相談をいただきました。
「有難いことにお客様にも愛され、大きな危機にも面することなく経営を続けています。そんな中で、”この会社の10年後はどうなるのだろう”と考えることが増えてきました。というのも、弊社には『社長の私がトッププレイヤーである』という問題があるのです」
「現場を離れて次世代を育てなければと理解はしているのですが、行動はプレイヤーのままです。そして正直なところ、『お客様からの”ありがとう”を直接受け取れる現場の仕事を離れたくない』という思いもあります。この現状に、どのように向き合うべきでしょうか」
現場を離れることの必要性は分かっていても、なかなか実行できない……中小企業の経営者に、このようなお悩みはつきものですよね。弊社のクライアントも多くがよく似た課題を抱えておられますし、実を言えば私自身も葛藤することがしばしばです。
そこで今回は、経営者として「現場を離れる」ことにどう向き合うか、私の考えをお伝えします。
そもそも、なぜ私たち経営者は「現場を離れたくない」と感じるのでしょうか。身もふたもない表現で恐縮ですが、その理由は恐らく「リーダーとして後進を育てるより、現場に立つ方が楽しいから」ではないかと思います。
ご相談者の方もおっしゃるとおり、現場ではお客様から直接”ありがとう”の言葉を受け取れます。この喜びは、何物にも代えがたいものですよね。しかし、現場を退いて教育やマネジメントを行う場合、これほどの手応えを感じられる瞬間はそう多くありません。
まず、自分に並ぶレベルのプレイヤーを育てるには、膨大な手間と時間がかかるものです。そのうえ、苦心しながら教えてもなかなか成長を感じられず、しまいには「そんなの社長にしかできませんよ」などとぼやかれ……「こんなことなら現場に立つ方がよほど面白いし、お客様のためにもなるのではないか」と感じるのも、無理もないことだといえますね。
しかし、それでも経営者は、覚悟を持って現場を離れなければなりません。なぜなら、経営者がプレイヤーとしてどんなに優秀であろうとも、一人が生み出せる価値の大きさには、必ず限界があるからです。
もし、自社ならではの価値を生み出せる人が経営者一人しかいなければ、会社の成長はいずれ止まってしまいます。より多くのお客様に感動や満足を届け続けたいと思えばこそ、経営者は覚悟を持って現場を退き、「自分以外の社員が、自分と同じ価値を生み出せるような仕組みの構築」に力を注がなければならないのです。
つまり、社員の教育やマネジメント、事業の体系化や標準化への注力が、結果として未来のお客様への貢献に繋がるということですね。
もちろん、事業によってはすぐに現場を離れることが難しいケースもあります。事業の専門性や独自性が高ければ高いほど、その傾向は強くなるでしょう。そのような場合には、「10年後には現場を離れよう」といった具合に長期スパンでの目標を定め、そこから逆算する形で計画を立ててみてください。
たとえば私の場合は、「20年後に現場を離れる」ことを目標とし、その準備として、一カ月のうち丸2日間を使った徹底的な社員教育を行っています。
もちろん、2日分の予算・時間・労力に対し、いつも納得がいくだけの結果が得られるわけではありません。時には「どれだけコストを割けばいいんだろう」「結局、自分が現場に出るしかないのではないか」と挫けそうになることもあります。
そんなとき、足を踏ん張る支えになってくれるのが、「現場を離れる仕組みづくりこそが、お客様への貢献になる」という考え方なのです。
芸術家が絵画や彫刻をつくるように、私たちのようなアントレプレナー(起業家)は、自らのイマジネーションを「会社」という作品に表現します。その作品が多くの社員の共感を呼び、多くのお客様を喜ばせるほど、会社としての成長は加速していくでしょう。
そして、会社という作品を素晴らしいものに仕上げ、広く社会に価値を届けるためには、現場を離れて会社全体を俯瞰し、教育やマネジメントを行う経営者の存在が不可欠なのです。
プレイヤーとしての技術は継承できても、会社づくりの指揮を取れるのは経営者であるあなたしかいません。ぜひ、その思いを胸に、現場を離れる覚悟を決めていただければと思います。