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今回は、書籍「ビジネスの武器としてのデザイン」を中小企業に活かす方法についてご紹介します。
著者は、自動車デザインを中心に、名だたる世界的企業の工業デザインコンサルティングを行ってきた奥山清行さん。本書では、「ビジネスを発展させるためのデザインの活用方法」に焦点を置き、具体的な事例も交えながら詳しく解説されています。
これからの中小企業が周囲から一歩抜きんでた独自の価値を生み出していくためには、「デザインを経営に活かす」視点がとても重要です。そこで今回は、本書の内容を踏まえながら、デザインの定義やビジネスへの活用方法についてお話していきます。
日本において、”デザイン”という言葉はおもに「物の見た目を美しくする」という意味で捉えられています。しかし、本来”デザイン”とは、物のコンセプトを立案し、開発・マーケティングまで含む全体の枠組みを作ることを指すのです。
「どのようなコンセプトで物を作り、どんな人たちにどう届けるのか」「そのために、何をどう見せるのか」を決めるのがデザインであり、見た目を彩るのはプロセスの一部分にすぎないということですね。
ここで、もう少し具体的な例を見てみましょう。
たとえば、大きな駅のエスカレーターには毎日のように長蛇の列が発生します。しかし、たくさんの人が不便を感じているにも関わらず、エスカレーターの形状は100年以上もほぼ変化していません。このとき、「どうすればもっと乗りやすく、便利になるか」を考え、そのコンセプトに沿って創意工夫を行うのが”デザイン”です。
もし誰もが快適に使えるエスカレーターをデザインできれば、それは一大ビジネスとなるでしょう。現状に抱く疑問をもとにデザインを行い、それを武器にすることで、ビジネスは大きく変革するのです。
本書では、デザインを行う上で、顧客の「ニーズ」よりも「ウォンツ」にアプローチするよう提唱しています。ニーズが「必要性」「なくてはならないもの」であるのに対し、ウォンツは「欲求」「あるとより満たされるもの」だと考えてください。
ウォンツを意識したデザインの成功事例には、ダイソン社の「デュアルサイクロン掃除機」が挙げられます。
ダイソン社は、透明なゴミタンク”クリアビン”を搭載することで、「掃除を楽しくする掃除機」を表現しました。いかに多くのゴミを吸引できるかを分かりやすくビジュアル化することで、掃除に伴う満足感・スッキリ感といった「ウォンツ」の部分を刺激し、今日のヒットに繋げたのです。
日本では、ニーズを満たす商品はもはや飽和状態に陥っています。ビジネスに変革を起こすには、不便を解消すること以上に、「満たされたい」という顧客のウォンツに着目したデザインを行わなければなりません。
また、本書では、ウォンツへのアプローチと併せて「プレミアム・コモディティを目指す」ことについても触れられています。
ここでいう「コモディティ」とは、商品やサービスが大衆化・一般化している状態を指します。”どこにでもある商品”あるいは、”ニーズは満たせても、ウォンツを満たすのは難しい商品”と言い換えることもできますね。
これに対し、”特別な付加価値や、独自の世界観を持つ商品”には、「プレミアム」や「ラグジュアリー」が挙げられます。高価格帯の商品や、いわゆる高級ブランドの商品がこれに相当するでしょう。
顧客のウォンツを満たして他との差別化を図るならば、プレミアムやラグジュアリーを目指すべきです。しかし、こうした商品をいきなり作るのはハードルが高いもの。そこで本書が提案しているのが、「普通の中の特別」すなわち「プレミアム・コモディティ」なのです。
プレミアム・コモディティ商品の成功事例には、アップル社の「iPhone」や、バルミューダ株式会社の「スチームトースター」が挙げられます。いずれもデザインを武器に、スマホやトースターといった身近な商品の中で他と一線を画することに成功した好例といえます。
これからの中小企業が発展を続けるには、ライバルの多いコモディティな商品・サービスの中で、いかに独自の価値を生み出すかが鍵となります。その際には、自社の価値観や商品のコンセプトをいかに表現し、どんな人々に届けるかというデザインの工夫がものを言うでしょう。
今回ご紹介した以外にも、本書には「ビジネスをデザインする」ためのさまざまな知恵が詰まっています。あなたの会社の商品を世の中により広く届けるための一助に、ぜひ本書を手に取ってみてはいかがでしょうか。